――冷やかし程度に10のお題
*ちゅーのお話?ウィンリィが攻めてるようで誘ってるのかなんなのか。
願うように目を閉じる。
ふわりと顔が近づく気配に、動悸の高鳴りは抑えられない。
ぬるく漂う空気を食むように、
向かい合ってキスをする。
淡い夜明かりの下で、落とした吐息はふわりと溶けて交わる。
シーツの上にあぐらをかくようにして座る彼に、
身体を寄せるようにして、何度も何度も口付けた。
唇を交わす間、言葉は無い。
ことばを唇に乗せる間も惜しくなる。
せわしなく求める。
まるで何かの儀式のように、キスをせがむ。
「ウィンリィ…」
向かい合った彼が、あたしの服を脱がしにかかろうとする。
そろそろ先に進みたいみたい。
でもあたしは構わずにキスをせがむ。
まだ、もうちょっと。
あたしの意識がまだちゃんとあるうちに。
二人して身体を擦り寄せるようにして、彼の両腕にそれぞれ両手を這わせる。
手に落ちるのは、あたたかさと冷たさだ。
右手には、彼のあたたかい腕。
左手には、彼の冷たい腕。
彼もまた、あたしの腕に手を這わす。
お互いに腕を掴み合って、牽制し合うように、触れあって押さえつけ合って、
唇を求め合う。
お互いに身を乗り出して、貪る。
加速していく熱はさらに身の内を上昇して、焦がす。
「ウィン…リぃ……」
ちょっと待て、と彼が少し戸惑ったような声を上げるけれど、
あたしは構わない。
離した唇を、今度は彼の首筋に這わせる。
そうしながら、まだ脱いでいない彼のシャツに、端から手を滑り込ませる。
…触れて、さわって、感じて、感じさせて。
わずかに身をひくそぶりを見せて、彼の身体が後ろに傾く。
これ幸いとあたしはさらに身体を寄せる。
もっと触れたくて、身を乗り出す。
金色の髪を寄せて、唇を近づけた。
耳朶をぺろりと舐める。
彼の身体がわずかに震えたのを感じて、気持ちがどんどん高揚する。
首元に唇を戻して、
彼があたしにそれを施すように、強く吸う。
しかし、彼がそうするようには、うまく跡はつかない。
目を凝らすようにして、吸ったそこを首を傾げて見つめる。
「……うまく、つかない…」
不意に、向かい合った彼があたしの頭に手を回す。
束ねた髪をぱらりとほどかれる。
指で梳きながら、彼は一言。
「……下っ手くそ」
意地悪な声がぽつんと落ちる。
どこか悪戯っぽい響きを持った、低いささやき。
ムッとして、唇を尖らせてみせた。
「あんたばっかりするから、あたしが下手なんじゃない」
…だから、あたしの意識がちゃんとあるうちに、あたしがするの。
ちゅ、ちゅ、と音を立てて、彼の肌に唇を当てる。
たくしあげた彼のシャツの下に手を這わせて、
彼があたしにそうするように、彼の胸を指先でなぞる。
「ちょ……っ…」
あたしの右手を彼の左手が遮った。
「な、に…すんだ」
慌てたような彼の仕草がどうしようもなく愛しくて
もっと見せて、と悪戯したくなる。
「あんただってするじゃない」
あたしは舌先を延ばして、彼のそこにキスをする。
「っ……」
あげかけた声を、彼が飲み込むが分かる。
胸に這わせた掌から伝わるのは、筋肉質の肌の感触。
そして、気のせいかもしれないが、胸の鼓動。
ドキドキ言っている。
…これは、あたしの心臓の音?それともエドの?
信じられないくらい、ドキドキしている。
だから、肌を通して感じるそれが、一瞬誰のものか分からない。
しかし、どちらでも良かった。
ただ欲しい。もっと感じて欲しい。ただそれだけだ。
さらに舌先を這わせようとしたら、それは彼に阻まれた。
視界が急に反転して、シーツの上に押し倒される。
額にかかった髪を寄せられて、なでつけるように梳かれる。
彼の片方の手はもう既にあたしの服に手をかけている。
「も、…無理…」
勘弁してくれ、と、彼は小さく言う。
「けち」
あたしは唇を尖らせる振りをする。
うるせ、と彼は一言呟いて、服を脱がし始める。
「……もう、充分だろ」
「まだよ」
彼の言葉をまっすぐに否定する。
はぁ?と彼は少し呆れたように顔をしかめるのが、
暗がりの下でもよく分かる。
「あともうひとつ」
あたしの髪に触れている彼の右手を探り当てる。
「おい……」
戸惑ったような声が返ってくる。
しかし、構わずに、あたしはその冷たい手を胸に抱えるように引き寄せる。
「……ここに。まだ、してない」
小さく音を立てて、そこに唇を落とす。
触れたところは、どこまでも冷たく、金属の味がする。
あたしの唇を、この冷たい手は感じることが出来ない。
…触れて、さわって、感じて、感じさせて。
そんな当たり前のことが、この手には望めない。
それでも感情を偽ることが出来ないから、
だからせめて、ここにもキスをする。
でないと、足りない。満ち足りない。
彼が彼の全部であたしを感じてくれる日が来て欲しいと願う言葉を口にしない代わりに、
愛しい腕に唇ひとつ落とす。
これで以て、あんたを支えるわ。
誓いにも似た口付けが終わると、
彼はひどく静かに訊いてきた。
「これで満足?」
満ち足りることなんてない。
分かっていても続きを求めるあたしは、なんて不毛なの。
ひどく静かなその問いに答える前に、
答えなど無用と言わんばかりに力強いキスが唇を塞ぐので、
あたしはただ願うように目を閉じた。
(fin.)
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2005.9.20 初出
2005.9.30
キスをする瞬間の空気や雰囲気みたいなものを妄想するのが楽しいです。この二人は、好きとか愛してるとか言わない方が萌えます。
言ったほうが話が甘くなって楽しそうって思うんですがー、なんとなく、言わせません。(まぁ言わせてもそれは萌え!なんですが。言わせてるのもいくつかありますね。なんでも好きですよ私)