*エドに恋してるウィンリィな小話。ほんのり本誌バレ風味のつもりでお読みください。
部屋の中ではあたしとあいつだけ。
片腕を調整中のエドは、左手に本を広げている。
その隣で、テーブルにつっぷして、あたしは暇をもてあましている。
エドはずっと本を読んでばかり。
あたしは今は仕事が無い。
仕事があれば、余計なことを考えずに済むのに。
だから、今のあたしには、この台詞がきっとぴったりだ。
―――気付かなければ良かったのに。
「エドの背中って、小さくないよね」
本から目を離そうとしない彼を横目でひと睨みした後、
机につっぷしたまま、
とりとめもなく、そう言ってみた。
並んで座ったテーブルの上には、所在不明なネジが2、3本散らばっている。
机につっぷした状態で、座ったまま木製の三脚椅子をぎしぎし揺らしてみると、
机上のネジはカタカタと不安定に左右に震えた。
それをぼんやりと眺める。なんだか面白くて、ぎしぎしと身体をゆする。
ゆするたびに、三脚椅子は床板の上でぎしぎしと悲鳴をあげた。
本を読んでいた彼は、
案の定、狙っていた通りの特定の単語に反応する。
お前なぁ…、とエドは苦虫を潰したような表情を浮かべて
ちらりとあたしを一瞥する。
「それだったら、普通に、『大きい』って言えよ」
それじゃダメなのよ、と思いつつ、別のことを口にする。
「どっちだって一緒じゃない」
同じじゃねぇ、訂正しろ、と彼はきりっとあたしを睨む。
いちいち細かいこと気にしない!と
あたしは身体を起こして手を伸ばす。
彼の本をとりあげようとしたけれども、
「今いーとこなんだよ」
邪魔するな、と彼はとりつく島もない口調で断言する。
さっきから本ばかり読んでいるエドがつまらなくて
あたしは大袈裟にため息をついてみせる。
「暇なのよ」
「オレは暇じゃない」
あたしは大袈裟にため息をついた。
机の上にもう一度つっぷす。
ごろん、とネジが転がって、
机上に投げ出されたあたしのポニーテールにかかる。
「絡まるぞ」
ひょいと手が伸びてきて、
机の上に本を置いたエドが左手でネジをつまむ。
…なんだ、ちゃんと見てるんじゃない。
せりあがる感情は、正反対の名前をもった二つの気持ちだ。
それを持て余してる。
だから、今のあたしには、この台詞がきっとぴったりだ。
―――気付かなければ良かったのに。
「エド」
「んー」
やっぱり本に目を戻してしまった彼に、
あたしはふと身体を寄せる。
三脚椅子をついっと彼の側に寄せる。
ぎぎっと床が軋んだけれど、気にしない。
「なに」
目だけは本に注いだまま、彼は問う。
それには答えずに、あたしは彼の真後ろに椅子を寄せた。
目の前には、彼の背中。
コート類を脱いだ彼は身軽なシャツ一枚だ。
やっぱり気にした風を見せないエドに、
あたしは奥の手を試してみる。
思いっきり撫でたい衝動は抑えて、
人差し指ひとつ分の感触で我慢する。
「!?」
背中がびくっと震える。
面白くて、ついっと、指先を走らせた。
指の先端に感じるのは、硬い肌。布地の上からでもそれと分かる。
「な、に…すんだよ」
心底迷惑そうな顔をくるりと背後に向けようとするので
前向いて!と眉を吊り上げて見せる。
彼はなんなんだ、と同じく眉をしかめて
それでも抵抗はしない。
それに気をよくしてあたしは調子に乗ってみる。
「これ、なんだ」
ついっと指を走らせる。
「あー…?」
エドは面倒くさそうに、前を向いたまま頭をひとつ掻く。
ぱたんと机の上に本は放り出される。
「……ED」
「あたり。じゃ、これは?」
「……AL」
「じゃ、次」
「…………お前」
「ちゃんと言葉で言いなさいよ。」
エドは盛大にため息をついて、面倒くさそうに小さく、名前を呼ぶ。
それに、ドキドキする。
そう。
だから、今のあたしには、この台詞がきっとぴったりなんだ。
―――気付かなければ良かったのに。
指先をつつぃっと走らせて、
あたしは頭に思い描いた図形を背中にのせる。
「…………」
エドは無言。
「わかんない?」
あたしの問いに、エドは違う形で答える。
顔は前を向いたまま。
「よく、書けるな」
「そりゃあね」
…飽きるほど見てきたからね、とは言わない。
言わないかわりに、あたしは繰り返し、その図形を指で描く。
赤い背中を思い描きながら。
「じゃ、次はこれ」
「あー………?」
エドの頭が横に揺れて、それにつられるように、
三つ編みが小さく左右に振り子のように揺れる。
「……わかんね」
「知らない?」
「最初のとこがわかんね。
…最期のとこに、オレと…お前の名前?」
半ば悪戯な気持ちひとつ、指先にのせて、
あたしは図形を描く。
三角形をひとつ。
三角形の頂点から、下に向かって線を一本、ずいっと引く。
その線の右にエドの名前。
その線の左にあたしの名前。
…知らないなら、知らないままでいいよ。
そのほうがいい。
気付かないほうが、今はまだ。
それなのに。
ああ、あれか、とエドはあっさり言い当てた。
「傘。…なんだったっけ………あ…」
言いながら、彼の動きが止まる。
言葉の続きは、出てこない。
部屋の中は沈黙が横たわる。
ちらりと見た机の上のネジは、もう、揺れていない。
そして、前を向いたままの彼の顔は、見えない。
あーあ。
あたしは指先を這わすの辞める。
そうして、
こつんとおでこを彼の背中にあてた。
聴こえる鼓動は自分のもの。
ありえないくらいに、早鐘を打っている。
さて、どうしよう?
今のあたしには、この台詞がきっとぴったりだ。
だから、彼に言ってやった。
なぞるように、唇に言葉をのせた。
あーあって、ため息落としながら。
「気付かなければ良かったのに」
(fin.)
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2005.10.05
告白タイム第2弾。(違)
冷やかしのお題…エドとウィンリィを冷やかすつもりが
ウィンリィばかり冷やかしてます…(私の中で)
エドに惚れてるウィンリィばかり妄想してるんです、が…。
背中フェチなウィンリィが好きでたまりません。助けてくださいー!