chapter4
「ウィンリィ。ちょっと」
なに、と言う彼女の目は少しとろんとしている。
「いいから、来い」
人ごみを掻き分けて、
エドワードはウィンリィの手を引っ張って連れ出そうとする。
なんでオレはこんなことしているんだ、と思いながら。
唐突に割り込んできた少年に、
ウィンリィに絡んでいた男は息巻いたが、
少年の顔を見てそれは途中で消失する。
エドワードはそんな男をひと睨みして、
ウィンリィの腕を引っ張った。
「ちょっと…な、にぃ…?」
少しばかり呂律の回らない声がしたが、エドワードは構わずに
ホールの出口へと向かう。
ウィンリィの足取りはあまり確かではない。
何度か赤いそのドレスを踏んでしまいながら、
エドワードに連れられて部屋の外に出る。
「あ」
ホールを出たところで、急に足が崩れるようなそんな感覚に陥って、
ウィンリィはふらりと体を傾ける。
「飲めねぇくせに、無理すんな、馬鹿」
「ちが…のめる、ようになったもん」
「うそつけ」
2年ほど前だったか、
こうしてパーティーがあった時も彼女はカクテル一杯で酔っ払っていた。
エドワードはそれを覚えていた。
「ま、待って…」
どんどん引っ張られて、
エドワードがホテルの部屋の一室に自分を連れて行こうとしているのを悟り、
ウィンリィの足はさらに鈍くなる。
それは不味い、と思ったからだ。
2年前とは違う。状況も何もかも。
だから、彼が、2年前と同じように自分を介抱するのは非常に不味い。
「部屋。ひとつ」
エドワードは通りすがりの従業員にぽつんと言い捨てて
ウィンリィを手近の部屋へ放り込む。
やだ、とウィンリィは慌てたが、体は言うことを聞かなかった。
面倒だと思ったエドワードは
ウィンリィをひょいと抱えあげる。
物を抱えるように肩に抱きあげられて、
ウィンリィはおろして、と言ったがきいてもらえない。
「だ、めだってばぁ…!」
適当に見繕って入った部屋は二部屋続きだ。
奥のベッドルームにウィンリィを投げ出すと、馬鹿!という声が返ってくる。
「……すぐ馬鹿馬鹿言うの、ヤメロ」
ベッドに投げ出されたウィンリィは体を起こそうとする。
しかし、体は思うように動かない。
「アンタ……何やってるか、わかって……っ」
「それは、お前だろ」
違う、とウィンリィは言い返そうとするが、口先もうまく回らない。
「前とは、違うの、よ…!今、あたしは…」
体を起こそうとするウィンリィの肩を掴んでもう一度ベッドに沈めてから、
明かりは無いのかとエドワードは辺りを手探る。
「あたし…見張られてるの。…あそこにいないってバレたら、…探しにくる…」
「なんで」
「ここにこんな風にいたら、あんたタダじゃすまないわよ…」
「だから、なんで」
ベッド脇の棚に置かれたランプに淡い橙色の明かりが灯る。
見れば、少し蒸気したように顔の赤い彼女が、
ドレスの裾を乱しながらベッドの上に体を投げ出している。
見上げてくる視線は真っ直ぐな青。
「あたしが、逃げ出したから」
意味が分からない、とエドワードが首をかしげると、
ウィンリィは泣き出しそうな表情を一瞬浮かべる。
部屋の外から、複数の足音が慌てたようにまばらに近づいてくるのがエドワードにも分かった。
「…あたしを、探してる」
ウィンリィはエドワードを見上げる。
射るようなその視線はどこか怯えていて、どこか願っている。欲している。
吸い込まれそうなその目にエドワードは負けた。
ぼそっと口を開く。
「…服。脱げ」
一瞬、何を言われたかウィンリィには分からなかった。
「え」
きょとんとしていると、真剣な表情をしたエドワードが近づいてくる。
首をしめていたタイを引っ張って緩めながら、
ベッドに膝を立てる。
「いーから!」
「え。や…ちょっと…!」
何するのよ…!という前に、エドワードがのしかかってくる。
それと同時、部屋の扉が乱暴に開けられる音が響いた。