■小説:「ヤサシイ方程式-PREVIEW-」Introduction
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「どれほど近づいても2人は1にはなれない。
方程式は、ヤサシイようでやさしくない。
それでも、同じ夢は見れる。」
ヤサシイ方程式-Preview-
「お願い、エド…あたしに…優しく、しないで…」
「そのお願いは聞けねぇんだよ」
彼は切なげに呟いた。
「ア」と声をあげて、
ウィンリィは彼の腕の中でぶるっと身体を仰け反らせる。
「易しく、ないんだよ……バカ」
その低い声を落とすと同時に、
彼はねじ込むように胎内に入ってきて、
ウィンリィは白い肢体を淫らにのけぞらせ、
髪を振り乱しながら、甘い声を上げる。
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【あらすじ】
ラッシュバレーにメンテナンスに来ていたエドワードとアルフォンス。
何日も降り続く雨に足止めされたエドワードは、
彼女から頼まれた「お願い事」のせいで風邪をひいてしまう。
そんなエドワードに対して責任を感じたウィンリィは、
「風邪をうつしていいよ」と言い出す。
真夜中に交わしたひめごとのせいで、
翌日、ウィンリィも風邪をひいてしまう。
揃ってクシャミを連発するエドワードとウィンリィをからかうのは
アルフォンスだけではなかった。
「ウィンリィさんのこと、どう思ってるのかなって」
そう言い出したのは、ウィンリィの機械鎧の客。
恐らく同じ気持ちを持っているのであろうウィンリィの客に向かって、
その場に彼女がいないことに油断していたエドワードは
自覚すらしないまま、敵対心にも似た衝動からつい言ってしまう。
「あいつは空気だよ」
しかし、彼が発した言葉はウィンリィにしっかり聞かれてしまっていた。
エドワードが、
その感情を「行為」ではなく「言葉」で現した初めての瞬間だったが、
ナゾナゾめいた彼の言葉に、人知れずウィンリィは悩みだしてしまう――
ささいな言葉から小さくすれ違い始めるエドとウィンリィを
アルフォンスは離れた所から見ていた。
「ウィンリィ、知ってた?
兄さんは、整備室ではウィンリィの背中ばかり見てるんだよ」
わかりやすすぎる感情がそこにあった。
さながら「1+1」に答えを出す時のように、易しすぎる感情の方程式。
しかし、
あえてわかりにくく距離をとって振舞おうとする兄とウィンリィに、
アルフォンスは一抹の不安を抱き始める。
「こんなにも易しい方程式を、
難しくさせているのは、
あの二人が優しすぎるからだ。
ボクがいるせいで、
あの二人はやさしい感情に従えないのではないだろうか」
しかし二人には何も言えないまま、
アルフォンスはそんな自身に自嘲しながらウィンリィに愚痴ってしまう。
「兄さん、なんでもひとりで抱え込んでしまうから」
兄はひとりで抱え込み、ひとりで国家錬金術師になった。
それに対してうしろめたい、と。
だからきっと、ウィンリィに対しても素直になれないんだ、と。
そんなアルフォンスに対して、
ウィンリィはまるでヒミツを共有するように、言葉を切り出す。
「アルが愚痴ってくれて、あたし嬉しい。
…だけど、ひとつだけ、大丈夫って言わせて」
アルがうしろめたく思う必要はないのだと。
ウィンリィは己が抱えている感情と行為に言い訳と贖罪をするように、
アルフォンスに対してエドのヒミツを告白してしまう。
「あたしね、エドのあの銀時計の中身を知っているの」
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