…寒い。
蕩けるような快感に意識を泳がせながら、
ウィンリィは静かに目を開ける。
静止した闇の中で瞳だけを巡らせ、
すぐ傍でほっこりとぬくもりを共有している
彼の身体を感じて、
ウィンリィはほっと嘆息する。
上体を僅かに起こして、
シーツの上に肘を付く。
室内はひどく寒かった。
この年最後の夜は大雪になる、とラジオではいっていた。
傍らのエドワードの顔をのぞき込もうとすると、
彼の手によって解かれた髪がさらりと肩を滑り落ちた。
改めて自分が何も身につけていないと自覚すると、
先ほどまでの彼との行為がまざまざと脳裏によみがえり、
ウィンリィは思わず顔を赤らめた。
「…キツかったか……?」
底冷えるような闇の中に
エドワードの低い声が落ちてきて、どきりとする。
暗闇の下で、ウィンリィはあわてて首を振る。
「起きてたの?」
「まーな。」
言葉を返されると同時に
腕を掴まれて抱き寄せられる。
ウィンリィを抱き寄せる時、
エドワードは必ず、ウィンリィを自分の左側に寄せる。
彼はその理由をハッキリとは言わなかったけれども、
ウィンリィにはなんとなくだったが分かるような気がしていた。
機械鎧は冷たい。
素肌でそれに触れれば、
こんな冷たい冬の夜にはつらい。
回された腕に肩をつかまれながら
エドワードはウィンリィの身体を自分の身体に押しつける。
彼の腕の戒めから逃れるように
ウィンリィは僅かに身をよじるが、
エドワードの力は強い。
シーツにくるまった二人はそのまま
お互いの体温を共有しあった。
外からは、吹雪の音が僅かに響いていて、
部屋には凍てつく空気が落ちている。
ウィンリィはおもむろに左腕をエドワードにのばす。
「…なんだ?」
「んー……冷たい、なぁって………」
のばした左手で、機械鎧の腕をついっと撫でる。
指先に刺すような冷たさを感じ取る。
「………そりゃそーだろ。」
ほら、触るなよ、とでも言いたげなエドワードの言葉を、
ウィンリィは遮るように、顔を屈め、
エドワードに口づける。
受け止めるようにエドワードは目を閉じ、
流れるように滑るウィンリィの髪を梳くようにして何度も手で愛撫した。
「ん」
唇を離すと、
もうちょっと、とエドワードがつぶやいた。
それに対して、ウィンリィは擦れた声で答える。
「もう、終わり…」
「ケチ」
エドワードはボソっと口をとがらせる。
「………」
身体を離そうとするウィンリィを遮るようにして、
ぐいっと彼女の横髪をエドワードはつかむ。
程近いところで二人の顔が向かい合う。
「今、何時か分かる?」
「え?」
何時って…とウィンリィは壁にかけた時計に顔を向けようとするが、
それはやはり遮られる。
自分の顔のところまで垂れてくるウィンリィの髪をそっと掻きあげ、
耳の後ろに寄せると、
エドワードはそのまま自分の唇を彼女の耳たぶに近づける。
そしてコソリと低い声で小さく囁いた。
「ヒメハジメて知ってるか?」
「え?」
聞きなれない言葉に、それって何、と言うウィンリィの言葉は声にならなかった。
エドワードはウィンリィが口を開く前に身体を入れ替える。
ウィンリィを組み敷いて、
エドワードは唇を落とし始めた。
「ちょ……やだ…!」
さっきもしたじゃない…、
とウィンリィはエドワードのキスの雨から逃れようとするが、
それは叶わない。
首筋から順に舌を滑らすエドワードは、
嫌がるウィンリィの両腕をシーツに押さえつけて
思い出したようにまた唇を奪う。
その唇の往復を受けながら、
ウィンリィは一体なんなのよ!ともう既に乱れ始めている息の合い間に口を開いた。
「だから、」
エドワードは機械鎧の手が掴んでいたウィンリィの手首を離して、
肘をつくようにしてウィンリィの髪を撫でる。
もう一方の左手はウィンリィの下腹部へと這わせながら、
エドワードは低く囁く。
「このまますれば、年越せるだろ。
ヒメオサメとヒメハジメ、まとめて出来るぜ」
来年も、再来年も、ずっとお前の初めてでいたい……
なんて事は口には出さず、
エドワードはその代わりとでも言わんばかりに
這わせた指をそっと動かす。
「……っあ…っぅ!」
ウィンリィがくぐもったような声を上げて、身体を震わせた。
エドワードの指がウィンリィの敏感な部分を弄り始める。
「冷て」
ぽそっとエドワードが呟いて、ウィンリィは顔が赤くなるのを感じる。
「…バカっ……ぁっ!」
指がゆっくりと自分の中に侵入してくるのを感じ取って、
ウィンリィは思わず目を固く閉じる。
エドワードは変わらない調子で、また呟いた。
あったかいよ、と。
何を言われてもとにかく恥ずかしくて、ウィンリィは身をよじる。
身体の真ん中で熱が生まれる。
それがどんどん円を描くようにして体中に染み渡るようなそんな感覚だった。
解放された腕に、エドワードの機械鎧が時折触れる。
それは刺すような冷たさを持っている。
けれど、それが余計に、
自分を抱くエドワードの暖かさを際立たせていて、
そのぬくもりがじんわりと染み入るように伝わってくる。
「…あたし、も、…あったかい、よ」
途切れるように言いながら、ウィンリィは両腕をエドワードの首に絡める。
あったかい。
だから、もっとぎゅっとして?
こんな冷たい夜には。
ずっとこうしていられたらいいのに。
けれど、その気持ちは底冷える夜のさらに奥底へ仕舞いこんで、
ウィンリィは徐々にエドワードの指に酔わされていく。
しんしんと冷える夜、
ウィンリィの声だけは、徐々に高まり、ただただ熱を帯びていく。
(fin.)
2005.1.2
ホントは元旦の深夜に上げる予定だったブツ…。管理人が寝過ごしてしまったために、タイミングを逃しました。うう…悔しい…。なんでこんなに最近早寝なんだ!しかし姫始めや姫納めとは全く関係ないような気もしなくもないよーな…。とりとめない話です。
そして、とりとめない後日談なるものが出来たので興味ある方は「次頁」からどうぞ。読まなくても無問題です。三、四行しかないすんごい短い小話。