■金曜日■ 彼女の容態は、しかし回復しなかった。一分、一秒、……時間が刻まれていくたびに、ゆっくりと悪くなっていくように見えた。緩やかに終焉がそこに来ているように思えた。それは、エドワード自身の後ろめたさから来るものかもしれなかった。 それでもエドワードは手紙を渡した。マスタングが渡していない手紙を。マスタングがエドワードにそうしたように渡した。人違いである彼女は、そうとも知らずに、待ち続けていた手紙を胸にとめて、やはり泣くのだ。 喜ぶ彼女の顔をみて、ひたひたと、エドワードを襲うのは、吐き気にも似た罪悪感だった。彼女を騙している。彼女の気持ちを、穢している。冒涜している。分かっていたが、止められなかった。 彼女が寝静まってから、彼女の机から手紙を取り出す。そして、筆跡を真似ながら、明日の分をしたためる。渡さなければならない本物の白い手紙は、エドワードがいつも持ち歩いていた。いつかは本当のことを言わなければならない。それでも、あと一日だけ、あと一日だけ、とエドワードは先延ばししたかった。 手渡された二通の白い手紙は、シュレディンガーの著書の間に挟んで、持ち歩いていた。言わなければという良心が、エドワードにそうさせていた。 エドワードは確信めいたものを心の中に常にとどめていた。それは、五十パーセントではなく百パーセントの確信だった。理由は分からなかった。ただひたすらにその確信に、おののいていた。 真実を言ってしまえば、必ず、彼女を失う。 |