■Chapter:10 エドワードはウィンリィを抱きすくめながら、あの二週間の出会いと別れを告白する。ウィンリィにそっくりの少女がいたこと。彼女に手紙を書いたこと。しかし、彼女は死んでしまったこと。 「オレ、あの人におまえを重ねてた。時間が経ったら、おまえはこんな大人の女になるんだろうなって。でももうおまえに会えないんだって分かったら……」 あのウィンリィにそっくりな女性を救いたくて、でも救えなかった。宛先不明の手紙を出し続けるという不毛な日々を過ごす彼女は言ったのだ、居場所さえ分かれば、飛んで会いにいく、と。 そして、ウィンリィは目の前に現れた。彼女の言葉のとおりに、世界の扉をくぐって、飛んできた。 「エド」 ウィンリィは彼に回した腕にぎゅうっと力をこめた。 「もう、いいよ。分かったから………泣かないで。エド」 「泣いてねぇよ」 そう返すエドワードの言葉は、しかし格好悪く掠れて震えている。 「エドは……そのひとが好きだったんだね」 「…………」 エドワードは目を丸くする。抱き寄せた彼女の肩口に顔を寄せたまま、動けなかった。 エドワードをなだめるように、ウィンリィは彼の大きくなってしまった背中をさする。異世界で、自分とそっくりな女性に会ったと、泣きながら告白する彼に、胸が張り裂けそうなほどに切なくなっていた。 (エドは) そういう可能性だってあるのだ。時間も空間も、世界も超えたこの場所で、同じ生き方はもうきっと出来ない。それを思い知らされた瞬間だった。 (エドは、そのひとを愛したんだ) 胸の内に落ちてきた答えに、泣きたくなった。聞けば分かる。エドワードはその女性を愛したんだ。二週間のうちに、愛して喪った。でも、ウィンリィはそれを責めるわけにはいかなかった。泣かないで、とエドワードを抱きしめながら、ウィンリィは泣いた。 (だって、責められるわけがない。だって、あたし達は、何も約束しなかったんだもの) 何も約束はしなかった。 それでも待っていた。約束しないうちに、彼はウィンリィの世界に背を向けて、ウィンリィは約束すらしていなかった居場所さえ失った。彼はもう待たせてくれないと思った。 「違う」 エドワードは身体を離して、ウィンリィの両腕を掴んだまま彼女を見つめた。 「そんなんじゃ、ない」 彼女にそういわれたことが、とてつもなくショックだった。愛していた? 誰が、誰を? 「オレは」 何かを言いかけて、エドワードは言葉を失ってしまう。涙をぼろぼろと流しながら、見つめてくる彼女がいた。 「責めてるんじゃない」 震えながらウィンリィは言った。 「そんな資格、あたしにはないもの」 「……」 「でも、言わせて」 ウィンリィは膝をついたまま、エドワードの服の端をぎゅっと握り締める。彼の胸に手をついて、彼を真っ直ぐに見上げた。泣き濡れた視界の真ん中に、夢にまで見た彼がいた。 だが、もう、夢ではない。 「あたし、何をしにこの世界に来たか、思い出した」 「……」 「エドに会いに来たの。エドがもう待たせてくれないなら、自分で飛んで会いにいこうって」 「……」 「会って、言いたかったことがたくさんあるのに」 ウィンリィはくしゃりと顔を歪ませた。格好悪く震える声が涙に濡れてかすれる。 会って言いたいことはたくさんあったはずなのだ。なのに、今彼を目の前にして、全てがすっかり消し飛んでしまった。 「なのに」 ウィンリィは泣いた。 「エドが好き」 言いたいことは忘れてしまった。頭の先から足の先まで、たった今ウィンリィの全てを支配している感情は、ただそれだけ。 「好き。エドが好きなの」 |