小説:「最 果 て の 地 で 君 を 描 く 」
それは、たった2週間の出会いと別れでした。

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Chapter:9






■Chapter:9



「帰り方がわからなくなったんだよ」
 エルヴィンは静かに言った。
「天女はね、記憶をなくしたんだ。男を盲目的に愛するあまり、帰りたくなくて記憶を失ったんだよ。羽根を切られたせいでもあるけれど、それのせいだけじゃないと私は思っているんだよ」
 とつとつと何かを言いたげに語るエルヴィンの横顔を、エドワードは淡々と見つめた。記憶をなくして帰り方がわからなくなった天女……。まるで何かを暗喩しているような、リューベックの街の謝肉祭の言い伝え。
「なぁ、エドワード君」
 エルヴィンは語りかけるようにエドワードの名を改めて呼んだ。
「彼女はさ」
「……」
 彼女、というのが誰をさすのか、エドワードには一瞬でわかった。
「君が惚れるのもわかるよ。……だってさ、彼女は君と同じで」
 きぃっと椅子を揺らして、エルヴィンは身体をエドワードに向ける。
「人生の匂いがしないから」
「………人生の、匂い?」
「そう。匂いだよ。……君を見たときからずっと思ってた。君は人生の匂いがしないって。何もかも捨てたような顔をしながら、ここにやってきた」
 どういう意味だ、とエドワードはエルヴィンの言葉の意味がわからずに、彼の言葉を待った。
「だけど、ウィンリィを見た瞬間、いきなり君に匂いを感じたんだ。……なぜだろうってひっかかってる。ウィンリィもまた同じ。彼女に会ったとき、彼女から人生の匂いがまったくしなかった。今までどうやって生きてきたか、……背景がね、まったく見えない女だと思ったんだよ」
 エルヴィンは薄く笑う。
「いい女だと思った。人生の匂いがしない彼女はしがらみも何もない。まるで何も知らない無垢な子どものようだと思ったんだよ。だから、いろいろと教え込めばきっといい女になると思った。……君が惚れるのも無理はない。私もまたそうだから」
 匂いがしない女はいい、とエルヴィンは静かに笑う。
「男が思うように教え込めるだろう。だから彼女を留め置いたんだ。それなのに」
「……あいつを、そういう目で見るのはやめろ」
 エルヴィンはふと顔をあげる。目の前にたつエドワードの目に怒りの色がさしていた。しかしエルヴィンはさして動じている様子は見せない。
「……それなのに、君が現れてから、彼女はどんどん女になっていく。私が何も教えていないのに、まるで教え込まれていたのを思い出すように、どんどん香りが強くなっていくんだ」







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■最果ての地で君を描く
劇場版鋼の錬金術師シャンバラを征く者 エドワード×ウィンリィ&ロイ

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