78.イコール
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ヤサシイ方程式-3




「エド……っ、止めて…」
「いやだ」

言ったろ、とエドワードはぼそりと呟いた。
「お前が言うまで、オレはやめない」
「……ゃ…っ!」
ウィンリィはか細く声を上げて身をよじった。
エドワードに半裸に剥かれた肌に、外気の冷たさが痛く刺さる。
そこに、エドワードの手が伸ばされてきて、
ウィンリィの二の腕、肩口、そして首筋をさすり、
それから剥き出しにされた胸へと手は伸びる。
「あんま、声立てるなよ」
エドワードは低く囁いた。
「…下に、ばっちゃん達がいるんだから」
ぎくりとウィンリィの身体は一瞬強張った。
それを確認しながらも、エドワードは手を止めない。
指先で捏ねるように両の果実を交互に弄られて、
ウィンリィは身をよじりながら、エドワードの身体を押しのけようとする。
しかし、彼にかなうはずもなくて、
抵抗のために上げた自分の両腕は、そのうちぱたりとシーツの上に落ちた。
エドワードの指先はとても冷たくて、
刺すように肌に触れられれば、痛いような、それでいて熱っぽい快感が生まれることを
ウィンリィは力無く自覚していた。

ウィンリィが抵抗しなくなるのを見てとると、
エドワードは弄っていた指を止め、
彼女の呼吸と共に上下に揺れるそれを交互に口に含んだ。

予想以上に彼女の身体は熱い。
内心、エドワードは戸惑っていた。
このまま抱けば、さらに悪化させる気がする。
それは、避けたかった。
なんでこんなコトになったんだよ、とエドワードはだんだん腹が立ってくる。

「あ」
ウィンリィは思わず声をあげる。
胸を甘噛みしながら、
エドワードの手がするりとウィンリィの下腹部に滑り込んだからだ。
いや、という声は、今度は音を作らなかった。代わりに、短く息があがる。
「…は…っ…」
容赦なくエドワードの指が入り込んでくる。
荒々しいやり方に、ウィンリィは両脚を堅く閉じようとしたが
エドワードの指は無理矢理にもウィンリィのそこをこじ開けようとする。
いや、と声を上げようとしたが、
気だるい眩暈がウィンリィを包むように支配していた。
熱のせいだろうか。

「言う気になった?」
エドワードは囁きながら、内心早く言って欲しいと願っていた。
答えてくれ。答えをくれ。
でないと、我を忘れそうになる。こいつを、こんな状態で、このまま抱きたくない。
しかし、闇の下でウィンリィは首を確かに横に振った。

なんでだよ、とエドワードはさらに苛々を募らせる。
…オレにいえないことってなんなんだ?
オレが困ることってなんなんだよ?
ただ知りたいだけ。何考えてるか、知りたい。
怒ったりしない。困ったりしない。
それなのに、彼女は言わない。
理由が分からない。言わない理由。ここまでしてるのに。言ってるのに。

エドワードの内心を読んだかのように、ウィンリィは小さく呟くように言葉を継ぐ。
絶対に言わないわ、と。そして、内心で堅く誓う。…二度といわないわ、と。

言えるわけがないじゃない。
あたしが今までどれだけ我慢してきたと思ってるの?
我慢して、泣かないようにして、絶対に言わないようにしていたのに。
熱のせいで、ぽろりと言ってしまった。
熱のせいだろうと、言うべきじゃなかったのに。
側にいて、なんていうべきじゃなかったのに。
そうしたら、こんなことにならなかった。
あたしは心安らかに眠りについて、明日の朝には風邪を治して、
エドワードのためにメンテナンスを再開できたはずだ。

「言わない…」
はぁ…と息を継ぎながら、ウィンリィはエドワードに腕を伸ばした。
横髪をかきあげるようにして、頬に触れ、首筋に指を這わせ、彼の頭にしがみつくように腕を回す。
彼の頭を抱き寄せるようにして、
耳元に唇を寄せた。
舌を差し出して、ぺろりと彼の耳を舐める。
「な…」
エドワードはみじろきして、身体を離そうとするが、ウィンリィは彼にしがみついたままだ。
唇を耳元に寄せたまま、擦れた声で彼に囁く。
「言わないわ。……言ったら、やめるんでしょ」
だったら、やめないで、と低く吐き出すようにウィンリィは言った。
「やめるんだったら、言わない」
エドワードは目をわずかに見開く。
……何言ってんだ、こいつ。
それを言われたら、オレはどうしようも無いじゃないか。

収拾がつかなくなる前に、やめようと思った。
エドワードは歯を食いしばる。
…やめようと思ったのに、やめるなと当の彼女が言っている。

「……ひっでぇ、ワガママ女……っ!」
身体を離そうと思った。だったらもういい。
知りたいことはあったが、ここまで言われたら知る意味は無い気がした。
その前に、こんな状態の彼女を抱く方が躊躇われた。
それなのに。
ウィンリィは、身体を離そうとするエドワードの耳元で、
擦れた声で呟いた。
「して。…お願い」
ワガママイコールお願いなんでしょ、と、ウィンリィはさらに囁いた。
だったら、お願いよ。

二度ともう言わない。
だから、言ったあたしに罰を与えて。
あなたが知りたい答えに、答えたいけれど、答えない。答えることが出来ない、という罰を。

エドワードは眉をしかめた。
「やっぱり……意味わかんね」
ちくしょ、と思いながら、唇を奪おうとしたら、それも遮られる。
肩で息をしながら、ウィンリィはエドワードの唇を手で押さえた。
「やさしく、しないで」
やさしくされたら、また言いたくなる。
熱のせいで、きっと何を口走るか分からない。恐い。
だから、やさしくしないで?

エドワードは、もう一度、意味わかんね、と呟いた。
そして、ウィンリィの首筋に噛み付くようにキスを落とす。
音を立てながらウィンリィの首筋を吸い、
今度はお返しとばかりに、ウィンリィの耳元に唇を寄せる。
耳たぶを噛み、彼女の耳に施されたピアスも丸ごと口に含む。
ピアスと耳の付け根にさえも舌を這わせて舐めるように唇を落とし、
分かった、と囁く。
「責任、とってやるよ。お前の望どおりに」
言いながら、もう何の責任なのか、自分でも分からなくなっている。
けれども、自分の身体の中で生まれつつある衝動のほうに、気が散った。

「あ」
ウィンリィは声を上げる。
エドワードの指は再びウィンリィの下腹部に伸ばされ、侵入を始める。
思わず足を閉じたくなったが、なんとかそれを耐えた。
眩暈がする。胸の動悸は高まり続け、際限が無いのではと思われた。
身体のどこもかしこも熱い。
全身でもって集中しているのは、彼の指の動きと、舌の動きだ。
ウィンリィは目を硬く閉じた。
感じたくない、と思ったが、それは無理だった。
拒否できるほど、生半可な感触ではないと、
何度も彼と肌を合わせたことから自分は知っている。
だったらせめて、声は堪えよう。
目は閉じて、何も見ないようにしよう。
そう思うのに、身体は目になり、彼の動きを脳裡に映像となって浮かび上がらせる。
全身を這う彼の感覚は、どうしようもなくウィンリィを震わせた。
彼の指の動きに切なくなる。
エドワードはウィンリィの身体をよく理解していた。
それほどに、自分達はお互いを覚えすぎている。
ぐちぐちと卑猥な音が耳に届くようになる頃には、
もっと掻きまわして、とウィンリィは思わず泣きたくなる。
もっとめちゃくちゃにして。ひどくして。

…やさしくしないで、って言ったのに、それなのに。
ウィンリィは自分の身体にのしかかるように迫る
エドワードの身体にしがみつく。
思い切り足を広げさせられて、ひくつく自分の敏感な部分に彼のそれがあてがわれて
切なくて、ただ目を閉じて彼を待っていたら、
やっぱりエドワードは、大丈夫かと聞いてきた。
やさしくしないでって言ったのに。

やっぱり、エドワードは、肝心な所で優しい。


「お願い……やさしくしないで」
高まる体の熱に、喘ぎながら、それでもようやく声を出したら、
そのお願いは聞けねぇよ、と声が落ちてきた。
「易しくないんだよ……バカ」

その声と同時に、
彼はねじ込むように入ってきて、
ウィンリィは身体をのけぞらせながら、声を上げた。




(fin.)







2005.2.14
…イコール=答え=易しくない。そんなイメージ?
予定よりも伸びました。もうちょっと続きます。

⇒続編。「52.「譲れない」」へ続きます。よろしければそちらもどうぞ。




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