「てのひら赤く」






「エドぉ…!雪ぃ!」


声がした。
朦朧とする意識を手繰るようにして、眠りから覚める。
起き上がって窓の外を見れば、
一面真っ白だった。

「エドってば!」

また、声がした。
彼女が、庭先で自分を呼んでいる。

「なぁんだよ!」
窓を開けて叫ぶと、雪だるまつくろう、という声が返ってきた。
雪だるまぁ〜?と思いつつも、
ちらほら舞う白い雪のしたで彼女がはしゃいだように笑っているのをみてとると、
何もいえなくなる。


刺すような冷たさに身震いさせながら外に出れば、
ウィンリィは既に雪玉をころころと転がしながら造り始めている。

「小さい頃はよく造ったよね」
ウキウキと笑顔を浮かべながら言う彼女を見ながら、
そりゃ小さい頃はなぁ、とぼんやりとする。
…ぼんやりとしながら、視線は、彼女の手に注がれていた。
ウィンリィは素手で雪に触っていたのだ。

「おいおいおい…」
思わず、雪を丸めるウィンリィの手を取る。
「なによぅ〜!」
中断されたウィンリィは不満そうに頬を膨らませる。
「なんか着けろよ……寒々しい。」
その手は、こころなしか赤い。
「エドだって何もつけてないじゃない」
「オレは、いんだよ」
……お前、手、大事だろ?

彼女のその白くそして赤いてのひらをそっと口元に近づける。
風船を膨らませるように、赤いそれにぷぅっと息を吹きかける。
「エド?」
ウィンリィが目を丸くする。
「………手ぇ、赤い。使えないと、マズイだろ。その、………整備とか、さ」
本当はそれだけじゃない。
赤いてのひらをみて、なんかほっとけなくて。
…まるで、何かに誘われるように。

みれば、ウィンリィは頬をほんのりと赤くする。
「……エドも。」
「は?」
握っていた手を、逆に彼女に握りかえされる。
彼女の唇が近づいてきて、
ふわっと温かな息が手の中に篭る。
……けれど、それは左手でしか感じ取ることは出来なくて。

「…あ、…冷たいだろ。右手。」
ただでさえさすような冷たさの中で、
自分のむき出しの機械の手はさらに寒々しい。
思わず彼女の手から逃れようとしたが、それは叶わなかった。
彼女の手がぎゅっと自分の両手を包む。
「ううん。……冷たくないよ?」
囁くように、彼女は言った。
「……あったかい、よ?」


顔をあげて、お互いの顔を見つめる。
小さく笑う彼女を見つめる。
はらはらと白い羽のように雪の舞う朝。
どこまでも白い庭先に二人で立っていた。
頬を蒸気させながら、
赤くてのひらを腫れさせながら、
あったかいよ、と小さく笑う彼女をただひたすら見つめていた。



笑う彼女がとても可愛くて。


…とてつもなく、ドキドキした。



(fin.)



2005.7.10
…拍手内お礼小説から再録。2005年1月11日アップ。



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