<1>
たいてい、唐突にやってくるのだ。
電話連絡をしろと何度口を酸っぱくして言ったって無駄。
ううん。違う。
本当に欲しいのは、電話ではなくて……。
「またあんたは!!
メンテの時は電話をするようにって言ってるじゃない!!」
「悪ぃ。忘れてた。」
エドワードはあっけらかんとそう言う。
「あんたが急に来ると、こっちも色々困るんだから!
ちょっとは考えなさいよ!!」
「はいはいはいはい。」
「はい、は一回で充分よ!」
「はいはい。」
ウィンリィは呆れて、盛大にため息をつく。
他のお客の予約もあるということで、
エドワードのメンテは後回しになってしまった。
とりあえず、右腕と左足の機械鎧をはずし、
左足にはスペアをつける。
ウィンリィの煩い小言を聞きたくない、とでも言わんばかりに、
エドワードはスペアの足で外に出ると言って出て行ってしまった。
「ごめんね、ウィンリィ。
今度こそちゃんと兄さんに電話するように言っておくから。」
二人のやり取りを見ていたアルフォンスは
ウィンリィをなだめるように言う。
しかし、ウィンリィはその言葉に対して、力なく首を横に振った。
電話は問題では無いのだ。
問題は、別にある。
でも、それは自分のわがままだから、
だから、言わない。いえない。強制できない。
「…ウィンリィ…?」
ウィンリィの目線の先には、
窓の向こうでふらふらと翻る赤いコートが揺れている。
それをじっと見つめながら、
ウィンリィは、小さく唇をなぞるように一言、言う。バカ、と。
その青い瞳がいつになく不穏に揺れていることに、
アルフォンスはようやく気づく。
取り外して胸に抱えている機械鎧に、
ウィンリィは不意に視線を落とす。
それはひどく傷ついていた。
「……あんた達、ホントに、どういう生活してるのよ……」
普通に使っていたら、こんな風になるわけない。
エドワードは大丈夫だから、と言っているけれど、
見くびらないで欲しかった。
沢山の機械鎧を見ている自分に、そんな誤魔化しが効くと
彼は本気で思っているのだろうか?
取り繕うように、アルフォンスは言葉を継ごうとした。
ウィンリィが心配するのは兄が一番嫌っていることを
アルフォンスは知っていたし、何より、
アルフォンス自身、ウィンリィに心配をかけたくなかったのだ。
しかし、アルフォンスは、言葉を継ぐことが出来なかった。
打ちひしがれるように窓辺に立って
エドワードの機械鎧を抱き締めるウィンリィの伏せられた瞳は、
いつも以上に光を帯びて、不安げに揺れていたからだ。
何かを言えば、そのまま堰が切れてしまうような、
そんな目だった。
エドワードは、
帰郷するとたいていリゼンブール村をくるりと散歩する。
そして、母の墓へと訪れる。
母の墓標の前に立つとき、
エドワードはポケットの中に入っている銀時計が、
わずかに重みを増していくのを感じる時があった。
それは気のせいのはずなのだが、どうしてもそう感じてしまう。
それは、戒めだった。
誓いであり、約束であり、そして、自分に対する戒めの証。
かつて犯してしまった自分の過ちに対する答えだった。
ふと見れば、
墓標の前には、白い花が揺れている。
エドワードはそれを見て、
思わず口元がほころんでしまうのを自覚する。
同じ花が、少し離れたところにある別の墓標にも、
同じように手向けられている。
それは、彼女がやっていることだ。
エドワードは地面に膝を付き、
そっと左手をその花に伸ばす。
白い花びらは応えるように、彼の指の中でわずかに揺れた。
……こんなことが、いつまで続くんだろうな。
ふと、そう思ってしまう自分を禁じえなかった。
リゼンブールに戻ると、いつもそう思ってしまうのだ。
それは、いけないことなのかもしれなかった。
しかし、それは唐突に、エドワードを捉え、離さない。
前へ進むと決めたのだ。
しかし、終着点の見えない旅は息苦しさを伴う。
行き先は不透明で、手探りで、
時折、自分がどこにいるのか、どこへ進むべきか、
ふと振り返ってしまいたくなるときがある。
それは、足を止めるということではないのだけれども。
唐突に何かを確かめたくなるのだ。
たとえば、賢者の石のこと。
たとえば、鎧の弟のこと。
……そして、たとえば、彼女のことを。
それは許されないことのような気がしていた。
そんなことを思う資格さえも、自分には無いと分かっている。
だから、弟には、こんな自分をけどられたくなかった。
前へ進むと約束したのに。
「兄さん。」
リゼンブールの風に乗るように、ふと声が落ちてきた。
エドワードは声のしたほうを振り返る。
風がエドワードの金髪を優しくなぶった。
それを左手で押さえながら、
近づいてくる鎧の弟に目をやる。
「なんだ。」
弟には悟られたくなくて、
エドワードは誤魔化すように、口調柔らかく応える。
「……そろそろ、戻ったほうがいいよ。」
ああ、とエドワードはリゼンブールの山々に目線を移す。
昼にあわただしくやってきたと思えば、
もう辺りは黄昏のマゼンタに染まり始めている。
「兄さん。……ウィンリィのことだけど。」
「ああ……電話だろ、分かってるよ。」
そうじゃなくて、とアルフォンスはたしなめるように言葉を続ける。
「なんか……変なんだよ。」
「変て」
アルフォンスの声のトーンはわずかに低くなる。
「なんだか、……ウィンリィ、泣きそうだった。
兄さんはもっとさ……」
ぴくっと、エドワードの眉根がわずかに険しくなる。
「そうか。」
呟くようにそう返す兄に、アルフォンスは、
そうか、じゃないよっ、と言いたくなる。
しかし、兄の表情がとてつもなく険しいものになっていくのを見てとり、
言葉は続かなくなってしまった。
エドワードはわずかに嘆息する。
もっと……何を言えというのだ。
彼女が言いたいことは分かっていた。
分かっていたが、だからと言って、容易に言うことは出来ない。
彼女が安心できるように、言葉を選んで彼女に言ってやるのは簡単だった。
だが、それが出来ない。
出来るわけがない。
「帰るぞ。」
エドワードはぽつんと言って、来た道を戻りだす。
風に揺れる赤いコートを、
アルフォンスはぼんやりと見つめていた。
揺れるコートの右の袖が、形なくゆらゆらと不安定に風に泳いでいた。
<2>
「なんか、ギシギシする…。」
その夜。ようやくメンテナンスの順番が回ってきたエドワードは、
調整をするウィンリィの後ろ姿をぼんやりと眺めながらぽつんと呟く。
「ギシギシ?」
首をかしげながら、ウィンリィはふいとエドワードのほうを振り向いた。
「ああ。……ギシギシ。」
エドワードは言いながら、スペアの足でトントンと何度も床を踏みつける。
「足。なんか、変。」
作業の手を止めて、ウィンリィはエドワードのほうへ近づく。
「痛い?……はずしたほうがいい?」
「ん〜……痛くはないんだけどな…。なんつーか…」
エドワードは首をかしげながら、スペアを見つめる。
「変な感じだけど、微妙。」
「………ハッキリしないわねぇ。」
その言い方がなんとなく気に入らなくて、エドワードはむっとする。
「なんだよ。ハッキリしねぇもんはしねぇの!」
しかし、そんなにいちいち怒らないでよ!……という声は返ってこない。
ウィンリィは、今日は何人ものお客を相手していて、
いつになくくたびれていた。
小さくため息を一つついて、
ウィンリィは床にしゃがみ、椅子に座っているエドワードの足に手をかける。
「はずすから、動かないで。」
「いいよ、別に…」
「変な感じなんでしょ。
とりあえず、はずしておいて、明日ばっちゃんに言ってみるから。」
ウィンリィの反応に元気がなくて、
エドワードはそれ以上もう何も言わない。
ウィンリィは無言で、エドワードの足に手をかけてはずす。
エドワードはそれを上から見下ろすような格好で、
作業する彼女をじっと見つめる。
昼間、弟が言いかけていたことをふっと思い出してみた。
……言うことが出来れば、どんなに楽だろう。
作業室を、重たい沈黙だけが流れた。
沈黙を破ったのはウィンリィだ。
「出来たわよ。」
スペアを抱えて立ち上がる。
「………歩けねぇ。」
ごとん、と音を立ててテーブルの上にスペアを置いたウィンリィは、
もう一度わずかに嘆息する。
「部屋、戻る?」
「おう。」
「じゃ、手伝うわよ。」
しょうがないわね、とウィンリィは息ひとつついて、
エドワードの左腕を肩にまわす。
「つかまって。」
ふわりと彼女の髪が鼻先で踊り、エドワードはなんとなく落ち着かない。
ロックベル家にきたらいつもあてがわれている部屋の前に来ても、
ウィンリィはそこを通り過ぎて、
自分の部屋の前までエドワードを連れ出す。
「なんのつもりだよ。」
「聞くまでもないでしょ。」
エドワードは自分の心臓が音を立てて撥ねるのをなんとか抑えようとした。
「お前、分かってる?今日はこんな格好なの。大丈夫か?」
「分かってるわよ。だからじゃない。」
「は?」
左手でドアノブをまわして、エドワードを部屋へ押し込む。
「……あんたは、手を出せないでしょ。」
「はぁ〜?」
「て、出せないから、側においておいても安心だわ。」
何考えてんだ、お前、と声をあげようとするエドワードは、
ウィンリィのベッドの上に押し倒される。
両手をエドワードの耳の横についたまま、
ウィンリィは彼の顔を見下ろす。
「いつものお返し。」
いつも、いつも、彼は、
唐突に帰ってきては、
思い出したように抱いて、さっさと出て行く。
「いい気味ね。」
鼻先を掠めるような、そんな軽い口付けが一つ、降ってくる。
エドワードは目も閉じず、
ただ、その口付けを黙って受ける。
ウィンリィもまた、探るような瞳を開けたままだ。
「目、閉じて?エド。」
「やだね。」
即答が返ってきた。ウィンリィは笑う。
その笑顔が、今にも崩れそうなほどに儚くて、
エドワードは心臓が締め付けられるような思いになる。
「……お前、何、考えてる?」
ひとつだけぽつんと沈黙が落ちてから、
静かに声が闇に落ちる。
「…エドと、同じこと。」
エドワードは生身の左手をウィンリィの頬に伸ばす。
「………泣くなよ。」
唇に、頬に、瞼に、ぽつぽつと雫が落ちてくる。
生身の左手に伝う水滴を感じながら、
エドワードはウィンリィの髪を撫で、
指でその雫の溢れる場所を拭う。
けれども、それはぽつぽつととめどなく溢れてくる。
払っても払っても、際限なく。
「……もうちょっとしたら、止まるから。」
だから、待って?
最後の部分は言葉にならずに、
倒れこむようにウィンリィはエドワードの胸に頭を寄せる。
こつん、と彼の胸に頬を当てれば、彼の鼓動が聴こえる気がした。
腕と足の機械鎧をはずした彼は、
いつも見慣れた彼とは少し違っていて、
それが現実を思い知らされる。
この身体の全てを、ウィンリィは自分のものにしたいと思う。
けれども、それは無理な話で、
彼にはやらなければいけないことがあった。
彼のポケットに仕舞われた戒めを、
ウィンリィは見て、それを知っている。
機械鎧さえなければ、彼は歩くことは出来ないし、
錬金術だって簡単には使えない。
この身体全てをものにしたかったら、彼に腕と足を与えるべきではないのだ。
ああ、とウィンリィは止まらない涙を憎く思う。
彼の支えになると決めたのに。
同時にこんなことを願っている自分がいるのだ。
最低だ、と思う。
彼が欲しい。けれども、それを叶わないようにしているのも同時に自分の機械鎧なのだ。彼が前を進めるようにと、支えようと決めたはずなのに、
自分の願いが、言葉が、行動が、矛盾に満ちていてウィンリィはいやになる。
自分の願いが彼を阻むことを知っているから、
だからいえない。約束もしない。
支えてあげる、待ってあげる、
それは全て、心の中で決めたこと。
しかし、ふと、思ってしまう自分を禁じえなかった。
彼が帰ってくると、いつもそう思ってしまうのだ。
それは、いけないことなのかもしれなかった。
しかし、それは唐突に、ウィンリィを捉え、離さない。
彼を支えてあげると決めたのだ。
しかし、待つだけの時は先の見えない息苦しさを伴う。
終着点は不透明で、手探りで、
ふと振り返ってしまいたくなるときがある。
唐突に何かを確かめたくなるのだ。
「ねぇ、今だけ。」
「………。」
絞り出すようにウィンリィは言葉を継ぐ。
「今だけは。」
機械の足と手だけじゃなくて、
全部あたしのものになって?
いまだけでいいから。
エドワードはウィンリィの横髪をぐいっとわしづかみにする。
顔を上げた彼女の顔にはまだ涙が流れている。
しかし、エドワードは構わずに、
深いキスを一つ落とす。
そして、ひとつだけ、言葉を放つ。
「いいよ」と。
…なぁ、分かるか?
オレはお前に待っててと言ったことも無いし、
お前が待つ義務も何も無いんだ。
オレはそれが嬉しくて、
でも平然と喜んでいられない。
お前を酷い形で縛っているって分かってるから。
オレはそれを望んでいるけれど、
それはお前にとってはいいことは一つもない。
だから、言えるわけが無い。
言えるのは、お前が欲しいという言葉に、
見せ掛けだけでも許しを与える言葉だけ。
それさえも傲慢で、間違ってるって分かってるのに。
お前に許しの言葉を上げるだけの立場にあるわけないのに。
キスしながら、破裂しそうなほどに溢れてくる気持ちは、
けれども、エドワードの口から言えるわけは無かった。
その言葉の全てが、彼女を縛ることになると、
エドワードは分かっていたからだ。
「いいよ」という言葉もまた、
彼女を捕らえて離さなくなる。そう、分かってるのに。
キスを何度も交わして、闇の中に二人分の吐息が響きだす。
どうしようもないことなのだと、
二人とも分かっていた。
<3>
何度となくキスを交わして、
闇の中なのに、視線がぴったりと合っているのを感じている。
心臓が、身体が、心が、痛いほど感じあっている。
両手で抱けないのがこんなにももどかしい、と
エドワードは息を乱しながら闇夜の中、視線を彷徨わせる。
彼女のわずかに上がった息が頬や喉下にかかるのを感じる。
さらりと垂れた彼女の髪が、肌の上を柔らかくくすぐった。
ウィンリィはエドワードの服をゆっくりと脱がせていく。
暗闇でのその動作はひどく不馴れで、たどたどしくて、
エドワードはそれがひどくもどかしい。
彼女にたくさん触れたいけれど、
片手しかなくて、身体の位置もいつもと逆転してしまっている。
少しばかり上がった息を隠そうともせず、
ウィンリィは脱がせた服の下から露わになったエドワードの肌に
ゆっくりと唇をすべらせていく。
その動きもとてもぎこちなくて、もどかしくて、
余計にエドワードの身体を刺激する。
「ズルイ…ぜ…」
息も切れ切れにエドワードは片手だけでウィンリィの服を脱がそうと
するけれども、うまくいかない。
「お前…も、見せろ…。」
なんでオレだけ脱がなきゃいけないんだよ、とエドワードは呟く。
「…は、恥ずかしいよ……」
ぼそっとウィンリィの声が落ちる。
「今さら何言ってんだよ、バカ」
横たわるエドワードに馬乗りになるような格好のウィンリィは、
困ったように動きを止めてしまう。
「ほら…脱げって…。」
たくさん触れないなら、せめて見たい。
エドワードは闇の中に浮き上がる彼女のシルエットを、
目を凝らすようにして見上げる。
「ば、か…は余計よ…っ。」
小さく言い捨てながら、ウィンリィは自分の服に手をかける。
ホントはオレが脱がせたい、と思いつつ、
エドワードは馬乗りになった彼女の下腹部へと手を伸ばす。
「ん…っ…。」
エドワードの上で、服を脱ごうとしていたウィンリィの身がぶるっと震えだす。
「すげ……濡れてる」
「や…だ…」
弄れば音を立てそうなほど、彼女のそこはしっとりと濡れそぼっていた。
「脱がすだけで、こんなに感じるのかよ。」
「バカっ…!!」
声を荒げるウィンリィだったが、
エドワードの指の動きに、服を脱ぐのも中断して感じ入ってしまう。
左手しか使えないエドワードはとにかく気持ちがはやる一方で、
もどかしさでどうにかなってしまいそうだった。
指で彼女の小さく敏感な鳥の嘴を嬲りながら、
ここでもう片方の腕があれば、
彼女の胸を思い切り揉んで、嬲って、
腰を抱き寄せながら無理矢理唇を奪ってるのに…などと頭の中でめぐらせる。
ウィンリィは、エドワードの指の動きだけでもう既に酔ってしまっていて、
首筋を思い切り反らせながら、とめどない喘ぎ声を甘く漏らしている。
指の動きを早められて、
ウィンリィの身体はどんどんエドワードのほうへと倒れこむ。
視界の中に、布切れの合間から顔を覗かせる二つの形良い乳房を捕らえて、
エドワードは舌をのばして、それをぺろりと舐め上げる。
「ひゃ…ぁ…っ」
頭上から、彼女の声が上がるのを感じて、
エドワードは、もっと聞かせて欲しい、と切なくなってくる。
身体がうまく動かないのが悔しい。
エドワードの顔をはさむようにして、肘をついたウィンリィの唇から、
とめどなく熱い吐息がこぼれてはエドワードの肌に落ちてくる。
「だ、だめぇ……も…ぅ…」
ウィンリィの息づかいはどんどん荒くなっていく。
それに加速させるように、エドワードは彼女の嘴や、入り口の辺りを
ぐちゅぐちゅと音を立てさせながら弄っていく。
「やぁあ……っ!」
小さく悲鳴を上げながら、
ウィンリィの身体はエドワードの上に倒れる。
エドワードの左の指は、収縮するようにヒクつく彼女の秘部に吸い付かれる。
それを無理矢理抜き取れば、
それだけの動きにも彼女の身体は全身をびくりと震わせた。
さらりと髪が揺れて、
ウィンリィが唇を落としてくる。
それをついばむようにキスを仕返して、
とにかく息が苦しくなるまで、口付けを繰り返す。
闇夜のしたで、お互いの唇から引く銀の糸を指で絡めとりながら、
エドワードはウィンリィに、彼女の愛液にまみれた自分の指を口に含ませる。
指先を丹念に舐め上げるその唇の動きに、
エドワードはどうしようもなく熱い衝動に駆られ始める。
「ごめんな」
ふと、口についた言葉は、謝罪のことばだった。
不意にウィンリィの息が浅く小さくなる。
どうして、という風に、彼女のシルエットがわずかに揺れた。
エドワードはさらりと彼女の金髪を梳くように、左の指に絡めた。
全てが、どうしようもなく愛しくて。
…ごめんな。いつも泣かせて。
笑ってるけど、ホントは泣いてるかもしれない、てそう思うときがある。
でも、それに気づかないフリをしてる。
気づいても、どうしてやることも出来ないから。
だけれど、ホントはお前を手放したくないんだ。
だから、不安になる。
帰ってきたら、お前がいなくなってるんじゃないかって。
約束も出来ないくせに、お前が待っていることを願ってるわがままな自分がいるんだ。
だから、簡単に出来ない。電話が出来ない。
確かめるのが怖くて。
どうしようもなく、我侭なオレを、
許して欲しいなんていえない。
…だから、失った手足のかわりに得た鋼は、オレとお前を繋ぐたった一つの存在なんだ。
皮肉なことに。
手足を取り戻すために、弟の身体を取り戻すために前に進んでいるはずなのに。
とてつもなく、皮肉な話だよな…。
ウィンリィは、髪を梳く彼の手をとって、
指先に次々にキスを落とす。
「…謝らないで?」
謝られたら、哀しくなってしまう。
謝られる資格なんか、自分には一つも無いのだから。
こんなにもあんたを求めてやまない自分に、謝ることなんてひとつも無い。
こんなに与えられていて、それなのに、まだどうしようもなく欲しいの。
我侭な自分に、こんなに応えてくれるあんたがどうしようもなく愛しい。
だから、支えてあげたい。
だから、奪いたいほどに欲してる。
どうしようもなく、愛してるの。
だから、怖くなる。
あんたが戻ってこない時がいつかくるんじゃないかって。
約束もしていないのに、あんたが帰ってくることを願ってる。
電話なんかじゃ足りないの。
ただ単に電話が欲しいだけじゃない。
電話だけじゃどうしても足りない、もっと大きな確証が欲しい。
…だから、あんたが失った手足のかわりに与えた鋼は、あたしとあんたを繋ぐたった一つの存在なの。
分かってるのに。あんたが手足を取り戻すために前に進んでるってことを。
それなのに、こんなことを願ってるあたしは、
本当にどうしようもない我侭な女なんだって。
自虐的な気持ちになりながらも、
エドワードはキスを落とすウィンリィに囁く。
オレを自分のものにするんだろう?と。
…彼女がそれを願うなら、ききたい。
囁き声は電流になって、ウィンリィの身体に奔る。
「今だけは」と断わりをいちいち入れる彼女がどうしようもなく愛しいと、
エドワードはそれだけを思う。
ウィンリィは身体を起こしながら、
感じさせてあげる、と小さくいった。
けれど、その声はわずかに震えている。
「違うよ」
と、エドワードは囁く。
「もう、感じてる。」
どうしようもなく、痛いほどに、心臓が感じてる。
「んんんっ………!」
息をなんとか継ぎながら、
ウィンリィは、エドワードの屹立したものを自分の中に沈める。
エドワードを上から見下ろすようにして、
ウィンリィはシーツに両手をつく。
「な……ん…か…」
ウィンリィは、はっはっと息を継ぎながら、吐き出すように何かを言おうとする。
「な、に…?」
彼女の腰に左腕をまわしながら、
エドワードも息を継ぐように応える。
ウィンリィはしばらく、呼吸を整えるように大きく息を吸っては吐き、
そしてようやく、吐き出すように囁いた。
「は…ずかし…ぃよ…、このカッコ…っ」
真下からエドワードの視線を一身に浴びている。
それを思うと、羞恥で死にそうになる。
浅い息を繰り返しながら、
エドワードは、大丈夫だから、と囁くように言う。
「すんごく、キレイだから」と付け足そうとして、
やっぱり、言えなかった。
ウィンリィが動きやすいように、
左腕で彼女の腰を押さえつける。
ぎこちなく、何かを確かめるようにゆっくりとウィンリィは身体を上下させ始める。
熱っぽい息が充満し、ねっとりと二人を覆い始めた。
動きながら、なんだかとてももどかしい気持ちにウィンリィは駆られる。
たくさん彼を感じたいのに、不安定な体位がなんとなく心細くて
思い切り動けない。
「エ、エドぉ………」
泣きたくなる気持ちで、ウィンリィは切なげにエドワードを呼ぶ。
「なんか、もう、だめ……」
助けて、とウィンリィは泣き喘ぐ。
エドワードは左手だけで、しっかりとウィンリィの腰を固定して、
ぐいっと自分の腰をわずかに持ち上げる。
そうすると、ウィンリィは、くぐもったような悲鳴に似た嬌声を上げた。
「やぁ……っ!……当たって……っ!」
ウィンリィは白い喉元を思い切りそらして、
形良い唇から甘い喘ぎをとめどなく溢れさせる。
エドワードは、息を乱しながらも、ウィンリィの下から
ひたすらに波を送り続ける。
「待って…待って…エ、ドぉ……!」
感じすぎてしまって、どうにかなってしまいそうだ、と
遠のきかける意識をなんとか引き戻そうとしながらウィンリィは泣き喘ぐ。
波打つ快感にもまれながら、
このままずっとこの時が終わらなければいいのに、と切なくウィンリィは願う。
そんなことはありえない、と分かっているけれども。
エドワードの余裕のない喘ぎが遠くで響いてくる。
あたしを感じてる?
ウィンリィはどうしても確かめたくて、
彼を全身で感じたくて閉じていた瞳をなんとか開けようと
ウィンリィは努力する。
しかし、もたらされる快楽の波にどうしても勝てない。
動きにあわせて急速に収束した熱は唐突に弾けて、
ウィンリィはエドワードの胸に倒れこんだ。
それとほぼ同時に、エドワードも果てる。
繋がったまましばらく抱き合い、乱れる息をなんとかして整えようと躍起になる。
痺れた意識が遠のきそうになるのを必死で抑えながら。
汗ばむ頬をエドワードの胸板にこするようにあてながら、
ウィンリィは目を閉じる。
早鐘を打つ心臓の鼓動を聞いて、またさらに涙がこぼれそうになる。
ただでさえ、泣いてばかりなのに。
こんな些細なことが嬉しい。
目の前の彼の鼓動を聞けて、どうしてこんなに嬉しくなってしまうのか。
ふと目を開ければ、
目の前に、右肩の機械鎧の接続部が飛び込んでくる。
ウィンリィは、つつ、とそれを白い指先でなぞるように撫でた。
すると、
なに…? と不意に落ちてきた彼の声は、哀しいほどに優しい。
永遠にこの時が続くなんて夢は、見ていない。
彼の身体が、全てが、自分のものにならなくても、
ウィンリィとエドワードの間には、
この鋼がある。
電話でも、言葉でも、一過性のこんな身体の繋がりでもなく。
確かに在るものはこれなのだと。
これだけだと言ってしまえばそれだけだけれども。
それでもとてつもなく大きな、確かな証だ。
今は、そう、思いたい。
優しい彼の声に、ウィンリィはなんでもない、と首を振る。
本当のねがいは口にしない。
それは、きっと、お互い様だ。
ただ今は、これだけ言おう。
ウィンリィはそっと彼に唇を寄せる。
「おやすみ」
今は、ただそれだけ。
それだけを胸に、更ける一夜をただ過ごそう。
小さな沈黙の後。
おやすみ、と言うエドワードの声が
キスとともに落ちてきた。
ウィンリィは闇夜のしたでそっと笑み、
頬を彼に寄せて、目を閉じた。
(fin.)
<後記>
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2004.11.23
1万hitキリリク小説です。
本当に有難うございます!!お礼に…なってるのか?
とにかく、終了です。
本当に、長らくお待たせいたしました。
頂いたkey Wordsは
「機械鎧の片腕、片脚を絡めたエドウィンの一夜モノ」
というものでした。
……なんだか、あまりうまくいかなかった…;;
リクエストして頂いたmill様には感謝の言葉もありません。
本当に、有難うございます!そして、その恩をこんな作品で返してしまう
管理人の無能さをお許し下さい…;
小説に関して;
最初は体位の変更(は?)とかあってかなり長かったんですが、
ちょうど今サイトの制限モノに関するアンケートの関係もあって、
あんま激しいのは微妙ではと思い、
(というのも、頂いたリクエストから出てくるネタが
かなり自分的にツボなものばかりで。いや、ホント、リクエストに恵まれました。
僥倖に感謝感激雨アラレって気分です)
R-15にあわせられるように内容を削りました。
(でもサイト入室は13歳以上許可ですから、すんごく申し訳ないのですが…;)
15禁といったら、私的にはこんな感じです。
そんな直接的な表現は、おそらくないかと。結構気をつかった…ハズです。
ただ、読み返してみて思うのが、
非常にモノローグが多いなぁ…ということで。
これはもしかしてSSなのか?
ただ、これを書いて、
自分のエドウィンの初心に帰ったような気がしました。
やっぱ、自分の萌えはこういうところ(どこ?)にあるのかも、と。
どうも、頂いたリクエストを消化できていない感がありますが、
精進したいな、と思います。
本当に楽しみながら書かせてもらいました。
なんだかサイトのほうは1万はとうの昔に通り越してますが、
(これはもしかして1万5千HIT記念小説なのか?)
遅筆で本当に申し訳ないと思いつつ。
本当に、お越しいただいて感謝いたしております。
今後とも、うちのサイトをどうぞよろしくです。(ぺこり)
2004.11.23 karuna 拝