ウィンリィはため息をついた。
手元には小さな小瓶に入った金平糖がある。
ふらりと寄った店先で見つけたものだ。
それを、甘いな、と彼は言いながら、
ぽりぽりと音を立てながら食べた。
「あのねぇ」
ウィンリィは彼の隣であきれたような視線を投げながら
小瓶の蓋をポンとあける。
彼はぽりぽり口を動かしながら、
しかし、ウィンリィのほうは向こうともしない。
机に置いた本をぱらりとめくりながら、
かりかりぽりぽり音を立てる。
「飴は舐めるものなのよ?
なに、アンタ。がりがり食べてるのよ!」
せっかくの金平糖なのに、と
ウィンリィはむぅっと頬を膨らませる。
掌に零した色とりどりの金平糖は
星屑のような形をしている。
それを口に入れて、
ウィンリィは舌先で転がす。
じわりと小さな甘みが口の中に広がって、
金平糖の棘のような形がころころと舌先に感じられる。
じんわり溶ける飴の甘みが楽しいのに
彼はがりがり音を立てて食べ、
ウィンリィはなんとなくそれが幻滅だった。
「がりがりうるさいなぁ」ウィンリィがさらに不満げに頬を膨らませたところで、
やっとエドワードは本から顔をあげる。
「うるせぇな。別に飴の食い方なんて
どうでもいいだろ?」
ぱらりともう一ページめくりながら、
エドワードは面倒そうに眉をしかめた。
「だって。これって形を楽しむものなのよ?
あんたがぼりぼり食べたら意味ないじゃない」
「面倒くさいんだよ。いちいち舐めるの。
溶けるのを待つのがだりぃ」
彼の答えに
あきれた、と言いたげに、
ウィンリィは大きくため息をついた。
「あげなきゃ良かった」
そういい置いて、ウィンリィが席を立とうとしたときだった。
「?」
エドワードに、ぐいっと腕を掴まれる。
え、と声を上げる間もなかった。
椅子に引き戻されて、
無理やり身体を引き寄せられる。
まるでスローモーションを見ているかのようだった。
ゆるやかに視界は動いて
いつの間にかエドワードの顔でいっぱいになる。
「あ」
思わず目を閉じる。
その矢先に、
ちゅ、と唇に音が乗る。
もがいた体を押さえ込まれるように抱きとめられて
キスされる。
いきなり何、と声をあげようとするウィンリィを
押さえ込むようにエドワードはキスをやめない。
「ぁ……んン…っンンッ」
両頬を手で包み込むようにして
ウィンリィの顔を捉えたエドワードは
ちゅ、ちゅ、と啄ばむように軽いキスを繰り返す。
(………甘い)
漏れる吐息に舐めた唇に
甘い匂いと味がする。
それは飴の味か
それとも。彼女の味か。
気が済むまでキスを続けて
ようやく顔を離せば、
ウィンリィの顔は桜色に蒸気している。
半ば肩で息をしながら
ウィンリィはエドワードをにらみつけた。
潤んだように光を帯びて揺れる青の瞳と、桜色の頬に、
エドワードは小さく息を呑む。
「な、に…すんのよ…っ」
あーくそ、なんでそんな顔をしやがる、と
眩暈を覚えながらも、
なにって、とエドワードは真顔で答えた。
「正しい飴の食べ方ってやつ?」
「はぁ?」
ますます顔を赤くして、
唇に手をやるウィンリィに、
エドワードはぎくりとするほどに心臓が跳ね上がる。
(やべ)
身体に熱が昇るのを覚えながら、
エドワードはなおもウィンリィの顔を両手で引き寄せた。
「飴。…もうひとつ」
もうひとつ、欲しい。
ウィンリィは目を丸くする。
彼の顔が近づいてくる。キスされる。
想定外の事態の連続に、
意識は置いてけぼりをくらっている。
それでも引き寄せられるように、心臓の音だけがせりあがる。
「な、に、言ってンのよ…っ」
どう考えても間違ってるじゃない、と
恥ずかしくて彼の腕の中でみじろぐが、エドワードにはかなわない。
「間違ってねぇよ」
ウィンリィが泡を食ったようにもがくのも構わずに、
エドワードは唇を寄せる。
「ン…っ」
舐めればいいんだろ?
とエドワードは低い声でそう言って、
しゃぶるように唇を食んだ。
(了)
再録:2007.3.6
短編小説として再録。
どうもこういう話を書くのが飽きないようです。
初出:2006.6.17
またちゅー話です。妄想してて楽しくてたまらんですよ。
飴に正しい食べ方があるかは分からないんですが、
エドは我慢たまらずにがりがりしそうですよね。
んで我慢たまらずにウィンリィも食べそうですよねと。
いつも拍手押してくださる方々。本当に有難うございます。嬉しいです。