■小説:「最果ての地で君を描く-PREVIEW-」Introduction
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それから1年が経った。
彼女が死んで、1年。
探していたシュレディンガーに、エドワードはようやく対面する。
しかしエルヴィン・シュレディンガーの元には、
既に一人の少女がいた。
紹介しよう、と科学者エルヴィンはその少女をエドワードの前に披露する。
どうして、というエドワードの動揺は、
贋物にはとても見えない彼女の笑顔の前に消沈する。
いるはずがないのに。
もう死んだのだから、この世界にその少女はいないはずなのに。
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「はじめまして」
お愛想に浮かべた笑顔すら、エドワードにとっては眩しかった。
いつもどこかで想っていた。
置いてきてしまった彼女の欠片を、この世界でつい目に追ってしまっていた。
いるはずがないのに。
しかし、笑顔とともに、彼女は名前を口にした。
エドワードは黙ってその笑顔を受け止めた。
自分がどんな顔をしているか、もう既に分からなかった。
それは夢か現か。
それすらも、動揺の海に呑まれて、
ただ名前を告げる女を見つめることしか出来なかった。
彼女は、彼女の声で、彼女の唇で、その名を告げた。
愛しすぎるその名前を。
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「2人の世界は二度と交錯しない。……はずだったのに」
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【あらすじ】
エドワードとアルフォンスが消えて2年。
ウィンリィはリゼンブールで相変わらず、整備師として過ごしていた。
そんな中、ウィンリィはリオールに住むロゼから1通の手紙を貰う。
「お願いしたいことがあるの。それから、気になる噂が」
彼女の願いに、ウィンリィは休暇をとってリオールへと向かう。
その頃、中央ではロイ・マスタングがグラマンから視察の命令を受けていた。
チェスに興じながら、グラマンはまるでロイを試すかのように告げる。
「なんといったかな、あのかつての最年少国家錬金術師。
ああそう、鋼の錬金術師。彼が、現れたそうだよ。
――リオールの街に」
共和制へと移行しつつあるアメストリスは、
新総統選出選挙に、全土が揺れていた。
東方辺境の地・リオールでも、例外ではない。
エドワード・エルリックの情報を追って、
ロイはリザを伴ってリオールの地へと赴く。
そして、汽車の中で乗り合わせたウィンリィと再会してしまう。
「あなたは、総統選挙には出ないのですか?」
「私にその資格はないよ」
責めるつもりなど無いのに、
ウィンリィの言葉は、
かつて彼女の両親を殺した罪の呵責に苛むロイに突き刺さる。
噂の錬金術師は彼ではない。彼であるはずがない。
扉は、壊したのだから。
それでもロイもウィンリィも、彼の影を追っている。
救いたくて、救われたくて、
世界は二度と交錯しないと己に言い聞かせながらも、
信じてしまう己に絶望する。
再び錬金術に汚されるリオールの街の秘密をみたウィンリィは、
ついに、探していたエドワードの「欠片」を見つけてしまう。
それははじまりの街で見つけてしまった、
彼と自分の、交わしていない約束の証。
約束なんかしていなかった。
それでも待っていたのだ。
約束する必要なんて無いと思っていた。
そして、約束すらしていない居場所を失った今、
もう待たせてくれないのなら。
「会いたいんです」
罪を作る錬成陣の前で膝を折ったウィンリィは泣きながら願う。
「あいつに、ひとことだけ、言いたいの。
だから、お願い、一度だけでいい、
扉を、あけて」
ついに彼女が膝を折ったその先には、
錬金術師の良心と罪悪のはざまで揺れるロイが立っていた―――。
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