■Chapter:12 エドワードの頬が鳴った。 「い……」 いて、と言い掛けたが、エドワードは言葉が出てこなかった。見上げれば、ボロボロと涙をこぼして自分を睨んでくる彼女の顔がある。 「バカ! エドのバカ! 大バカ!!」 エドワードは己の頬を撫でた。ひりひりと痛みが滲み出す。彼女に平手で叩かれたのだと理解するのに少し時間がかかった 「こういうときはねぇ!」 ウィンリィは涙声を張り上げた。 「物分りいいこと言ってないで! 引き止めなさいよ!」 「………」 泣きじゃくりながら、ウィンリィはエドワードの胸にどんと拳を叩きつけながら倒れこむ。 「必死で、あたしを止めてみなさいよ! 全力で、あたしをひきとめて!」 傍にいてって、言って? 言葉が欲しかった。物が要らないなんて嘘。なんでもいいから、証が本当は欲しい。 掴みかかってくるウィンリィを、エドワードはすっぽりと抱きとめた。腕の中で彼女が怒ったように暴れもがいた。バカバカバカ! とウィンリィが何度も何度もなじる。それを聞きながら、エドワードは泣きたくなってくる。頭にきていた。だが、同時に悲しかった。感情がぐるぐると身体を渦巻いて、どうしたらいいかわからない。 「あたしは!」 何度叩いてもビクともしない彼の胸にウィンリィは頬ずりするように抱きついて、泣いた。 「あんたが!」 流れる涙を隠そうともせずに、ウィンリィはエドワードを睨みながら言った。 「好きなのに!」 だけど、ずっと一緒にはいられない。 あたしはこの世界には生きていけない。 ああくそったれ! とエドワードの中で何かが切れる音がする。 抱きとめた彼女の身体は悲しくなるほどに華奢で、軽かった。その身体を下敷きにするようにして、ベッドに押し付ける。 「分かった」 自分の上に出来た影が思った以上に大きくて、ウィンリィは涙に濡れた両の瞳を見開く。エドワードと視線をかみ合わせた。音もなく交錯した両の眼差しが、一挙にウィンリィを捕らえる。 (つかまる) ウィンリィは思わず息を呑んだ。彼の眼差しには力があった。その金色の瞳で精悍に見つめられたら、もう逃れられない。 静かに言葉を待つようにして見つめてくるウィンリィを上から見下ろしながら、エドワードは震えるように言った。 青い眼差しが雨色に濡れてしまっている。それを指先ですくいながら、エドワードは言った。 「……もう、分かった。物分りいい振りは止める」 「……」 「好き勝手言いやがって。……オレが、平気なわけねぇだろ」 はたかれた頬がヒリヒリと痛い。 それで、目が醒めた。醒めてしまった気がする。 (離したくない) 自覚する。頬の痛みが教える。彼女がいなくなる。本当に、手放せるのか? 答えは決まっていた。 エドワードはおもむろに彼女の服に手をかける。ウィンリィは息を呑んで、身をすくめた。彼女の抵抗がないのをいいことに、エドワードは彼女のブラウスを裂くように左右に開く。留めていたボタンが弾けとんで、シーツや、床の上にパラパラと音を立てた。 抵抗は許されなかった。許さないと思った。ひきとめろと言われたのだから。 ああ、違う、とエドワードは胸のうちで訂正する。そんなことを思う以前に、圧倒的な感情がエドワードを支配している。自分が、止めたいのだ。引き止めたい。傍にいてほしい。離したくない。こんなに、身体も心も気持ちも全てが、愛しているのに。愛したいと悲鳴をあげているのに。 噴出した感情が、エドワードの身体に激流し始める。 自分のシャツも脱ぎ捨てながら、エドワードは宣告した。身がすくんだように動かず、自分を見上げてくる愛しい青い瞳に顔を近づけて低く囁いた。 「全力でひきとめてやる」 「……」 そこに怒りにも似た感情が流れている。彼の覇気を感じたウィンリィの身を襲ったのは、どうしたことか恐怖に近かった。自分が何に怖がっているのか、分からなかった。 胸を露にされたまま、ウィンリィは起き上がろうとする。しかし、彼に引き戻された。両腕を押さえつけられて、ベッドの上に磔にさせられる。 「や……」 畏怖で身がすくんでいた。予感がしていた。何かに恐れている。エドワード自身に対してではなく。 「離さない。おまえがどこに行きたいっていっても、絶対に、手放さない」 やだ、と言いかけた唇は、のしかかってきた彼にキスで塞がれた。唇を蹂躙しながら、エドワードはウィンリィの服をどんどん脱がしていく。抵抗する間もない素早さと力強さだった。それに動転しながら、ウィンリィは彼の唇を必死で受け止める。身体を押さえつけられて、しゃぶるように唇と舌を絡めてくる彼をおしのけようとする。 「え……ど…っ」 息が苦しい。唇を離されて、続かなくなった呼吸がようやく戻る。離れてようやく見えたエドワードの顔を見つめて、ウィンリィは声を出せなかった。 (そんな) 一瞬だけ見えたエドワードのその表情がそこにあったのは、本当に刹那の瞬間だった。 (そんな泣きそうな顔) ウィンリィは言葉を失う。 エドワードは怒ったように唇をぎゅっと結ぶと、ウィンリィにまたも宣告した。 「全力でだ」 ひきとめてやる。おまえが泣いてもきいてやらない。 そう呟いて、エドワードはまたもウィンリィの身体にのしかかった。 ---------------------------- >>>続きは発行本で読めます。 こんな感じの劇場版後の世界を自由に創作捏造しています。 この結末がハッピーエンドかバッドエンドかは 読む人次第です。 お付き合いありがとうございました。 |