「お熱いのはお好き?」



ガンガン2007年4月号を読んだ後に書いたもの。5月号発売までの時限爆弾付<(c)アル様>な妄想です。本誌ネタバレしてますので、ネタバレ嫌いな方はお逃げ下さい。





お  い の は お 好 き ?





だいたいねぇ、とウィンリィは眉を吊り上げた。

「こんな北国まで行くんだったら、
電話のひとつくらい寄越しなさいよ!」

エドワードはムスッと唇をへの字に結んで押し黙る。
その脇で
二人のやりとりを眺めているのは、
ブリックズの面々とアルフォンスだった。

牢から出されたエドワードは、
大総統の「はからい」によって
やって来たウィンリィの整備を受けるため、
ブリックス内の医務室に来ていた。

「まさか女の子だったとはねぇ」

はぁ〜とため息とも嘆息ともつかない息を吐いて、
しげしげと二人を観察するのは、
メガネをかけた女医だ。

彼女は、医務室に揃った面々を、
ひぃふぅみぃ……とおもむろに数え出す。

医務室には、
アルフォンスはもちろんのこと、
バッカニアに、バッカニアの腕の整備師、
それにマイルズまで揃っている。

すでにテキパキと準備に入っているウィンリィのそばで、
上着を脱ぎながらエドワードは憮然とした表情を浮かべる。
「オレの整備師で、幼なじみだよ」
「それだけ?」
女医に問い返されて、
エドワードはぽかんとする。
「はぁ?」
なにがだ?と、エドワードは首をかしげた。
女医の言っていることが心底からわからない、といった表情だ。

そんなエドワードに対して、
さぁ?と意味ありげにニヤリと軽い笑みを口元に浮かべると、
場の人数を数えた女医は、
戸棚に歩み寄って、カップを揃え始める。

その横で、
持参してきた工具箱類を開けながら、
ウィンリィがさっさとしなさいよ、
とエドワードをねめつける。

うるさいな、とばかりに、
エドワードは思い切り顔をしかめてみせた。

どこか不機嫌なエドワードをよそに、
おお〜!と声があがる。

「これかい、アンタの造ったっていうのは」

ウィンリィが開けたケースの中には、
彼女がガーフィール工房で造っていた機械鎧が一式入っていた。

バッカニアやバッカニアの整備師は、
ウィンリィ作の機械鎧をしげしげと覗き込む。

「さっさとやっちゃうわよ、エド」
「……」

新品の機械鎧を取り出しながら
ウィンリィはチャキチャキと作業を進めようと
準備を整えているのだが、
エドワードの方はというと、どこか億劫そうで、動作は重い。

「なんでみんなして勢揃いなんだ……?」

あら、と女医は肩をすくめてみせる。

ふんわりと唐突に部屋に満ち始めたのは
コーヒーの香りだった。
並べたカップにコーヒーを注ぎながら、
彼女はおどけたように言ってみせる。

「天下の国家錬金術師様の“仕様”、見ておきたいじゃない?」

女医の言葉に、エドワードはさらに不機嫌そうな顔を作った。

「あいにくと見せ物じゃねーよ」

シャツを脱ぎ捨てると
エドワードは不機嫌そうな顔のまま
肘枕の横にすえられた椅子に腰掛ける。
すぐ隣には、準備をしているウィンリィ。
そして、そのさらにすぐ傍では、
作業台の上に広げられたエドワードの北国仕様の機械鎧を
眺めているバッカニアや技師がいる。

「いい仕事してるねぇ、アンタ」
まだ若いのに、と
バッカニアのクロコダイルを整備している技師は
感心したようにそう言う。
その言葉に、ウィンリィは、どこか照れたように
ありがとうございます、と小さく言葉を返す。

むすっと唇を引き結んだまま、
エドワードはそんな彼女達のやり取りをちらりと眺めていた。
なんだか面白くない。

「おい」

エドワードはどこか怒ったような声で
背中を向けているウィンリィを呼んだ。

「何よ。ちょっと待って」
そう言って、ちらりとウィンリィが彼を振り向いたときだった。


ぐいっと、エドワードは身を乗り出す。
肘枕越しに、あいた生身の左手を、
おもむろに振り向いたウィンリィの顔に伸ばしたのだ。

「!?」

ぎょっとしたように、ウィンリィの目が丸くなる。

「な…」

ついと指先がウィンリィの髪に触れ、
さらにそのつややかな金糸の下から見え隠れするそれに
エドワードは指を伸ばしてた。

「……ピアス」

「え?」

エドワードは指先に触れる金属をついと撫でる。
差し向けられた眼差しに縫いとめられるように、
ウィンリィは呆然と彼が何を言うのか待った。

「外せ」

シモヤケなっちまうだろ、と言い掛けたエドワードだったが、
しかし、口にしかけた言葉は途切れてしまう。

「……え」
今度は、エドワードの目が丸くなる番だった。

目の前のウィンリィの顔が、
まるで熱でも出したかのように、真っ赤になっているからだ。

「な」

パッとエドワードは手を離す。
何かしてしまったかと、ヒヤリと背筋が冷えた。
しかしウィンリィの顔の紅潮はとどまることを知らないようだった。

そんな彼女を見て、
まるでそれが伝染してしまったかのように、
エドワードの頬もみるみる赤くなる。


「…な……ッんだよ!?」


なんで赤くなるんだ、と、言い掛けたが、
エドワードは言葉に詰まった。
どうしたことか、言えなかった。

理由を、聞けなかった。



「だって……」

少し身を引いて、
熱のひかない頬を隠すようにてのひらで抑えたウィンリィは、
困ったように唇を尖らせた。
彼女にとっては不意打ちだった。
それまでなんでもないように振舞っていたのに
うっかり「それ」に思い至ってしまったからだ。

お互いに言葉をなくして、
呆然と見つめあう。
顔は赤く茹で上がったままだ。

女医から順番にコーヒーを受け取った面々は、
そんな二人を、意味ありげに見物と決め込む。

周囲の視線に真っ先に我に返ったのはエドワードだった。

「ちが…ッ…こここ、こ、これはだな!」
「なにが違うのさ?兄さん」
意図的なのか、そうでないのか、
素朴な疑問はさらりと弟から投げられる。

なんでそんなこと聞くんだよ、とばかりに、
エドワードは弟のほうを必死の形相で向いた。

「だから!さっき、そっちの先生も言ってたろ。
ナントカ凍傷になるから、金属は危ないって!!」

だからだな、とエドワードは弟からウィンリィに視線を移動して
びしっと指をさした。
「外せって言ってんだ、こんな北国でおまえこそ何考えてんだ?
バカ!」

肩で息をする勢いでまくしたてるエドワードに、
ウィンリィは、顔を赤くしたままだったが、むぅっと頬を膨らます。
今しがた、身のうちに立ち昇った感情に動揺していた心が、
ゆるゆると我に返っていく。

「バカとは何よ!バカとは!あんたに言われたくないわよ!」
「うるせー!バカはバカだ!」

やれやれまた始まった、とアルフォンスが仲裁に入る前に、
さらりと二人の間に割って入ったのは、女医だった。

彼女はウィンリィが工具類を広げているテーブルに
コーヒーカップをひとつ置く。
そして、
まぁまぁ落ち着きなさいよ、とばかりに、
最後にエドワードにもコーヒーカップを手渡した。

シャツを脱いで肘枕の横に腰かけたエドワードは、
まだ若干赤い頬を隠せずに、
女医をじろりと睨んだ。


「……また100センズか?」

女医は、いーえ、と肩をすくめて見せる。
ほい、とてのひらをみせてひらひらと振ると楽しげに言い渡した。

「300センズ」

「……高ッ!」

なんで三倍に値上がってんだ!と
カップを手にとって口を付けかけたエドワードは
女医の言葉に即座に抗議する。

「だってねぇ」
彼女は、ウィンリィとエドワードをちらりと見比べると、
にんまりと言った。

「あっつぅ〜いのが飲めたでしょ?」

「……」

どういう意味だ、とエドワードは警戒するような眼差しを
彼女に向けたまま押し黙る。


「そーか、そーか、そぉかぁ〜」

そんなエドワードの様子に、
面白いものを見つけてしまったとばかりに
女医はニヤニヤと顔を緩ませながら
トドメだとばかりにさらりと言った。


「……大好きなのねぇ」


どこかで聞いたフレーズに、
エドワードがコーヒーを吹いたのは二度目だった。


(了)



お  い の は お 好 き ?





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2007.04.09
楽 し く て し ょ う が な い 。

5月号発売までのおつまみにどうぞ。時限付です。
推敲ほとんどしてないので、読みにくい文ですみません。



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