…2006年3月号読んだ後にぼんやり書いた小話。若干ネタバレ気味。
エドウィン要素はほとんど無いです。
――コイン1枚で繋がるあいつ。
【ウラ】
電話は鳴らない。
だけど、気にしていないの。
鳴らないのは、「問題無い」しるしでしょ?
鳴らないならそれでいい。
無くたっていい。
なのになんでかな。
鳴った途端に、跳ね上がる。
「はい。ガーフィール工房」
ちゃり、と何かの金属が擦れる音が聞こえた。
コインの落ちる音だ。
一拍の間を置いて、
耳をくすぐるのは、
どこか慌てたようなあいつの声。
不意打ちに、心臓が跳ね上がる。
何かあった?
鳴らないのは、「問題無い」しるし。
鳴るのは。
電話の向こう側から伝ってくるぶっきらぼうな声は、
あたしの想像を全て裏切って、逆にあたしの心配をしてくれている。
跳ね上がった心臓は
ゆるやかになりをひそめて、
あたしの口は、反動のように違うことを発している。
ああ違う。
言いたいのはそういうことじゃなくて。
あたしは言葉を探す。
あたしは大丈夫。
あんた達は?
怪我してない?
危ないことしてない?
でも電話はいつも短い。
だから、
短い電話に
ぴったりな言葉を探す。
【オモテ】
――コイン1枚で繋がるあいつ。
真っ先に電話したのに、
あいつの言い草はそれは酷い物だった。
……怒ったり、怒鳴ったり、しおらしくなったり。
なんなんだよ。
思い返しているそばで、
兄さんの普段の行いのせいだよ、
と、アルは言い、
あのなぁ!
と、オレは反論しようと開きかけた口を、
しかしやはり閉ざした。
電話ボックスを出て、
大佐からせしめた小銭をじゃらじゃら言わせながらポケットにしまう。
しかし、ふと思い立って、
コイン1枚、左手の指先にのせた。
医者のところへ行くのだというアルに
それを示してみせる。
「?」
隣でアルが首をかしげる。
オレは無言のまま、指先でコインをつまむ。
そして、
親指と人差し指を使ってそれをはじいた。
跳ね上がったそれは
空中でくるくると軌跡を描いて、
また手の中に落ちていく。
手の甲でそれを受け止めて、
オレはアルに問う。
「え〜?」
アルは困ったような声を上げた。
「見てなかったからわかんないよ」
「見てたら分かるのかよ」
「たぶん」
すげぇ自信、
とオレは軽く笑って、どっちよ?ともう一度問う。
アルは小首をひとつかしげてから、
「オモテ?」と答える。
さてどっちかね、とぽつんと呟いて、
オレは手の中を開かずに、そのままポケットにスライドさせる。
「えー。聞いておいて、答えはなし?」
なんだよそれ、と鎧の弟はわずかに不満そうな声をあげる。
「……わかんねぇの」
何がさ?
とアルはたずねたが、オレは答えない。
ただ耳に、こびりついているひと言葉。
まだ何かいい足りない気がしたが、
振り払うようにオレは歩き出す。
ポケットのコインを握り締めたまま、
ウラかオモテか、知りたいのを振り払って。
【ウラ】
――コイン1枚で繋がるあいつ。
切れた電話に向かって、吐き出せなかった不安。
…どうして電話なんかしてきたの?
「さっきから二十面相ね」
「え」
切れた電話にぶつぶつ悪態をついていたら、
思考の横から割り込んでくる声に慌てる。
「に、二十面相?」
受話器から手を離して、
あたしは慌ててガーフィールさんのほうを見返した。
「膨れっ面したかと思ったら、急に顔が緩んだり。
顔赤くしたかと思えば、なにやら深刻そうに……」
そう言いながらガーフィールさんは
眉間に眉を寄せてみせる。
あたしは、はぁ、とため息をついた。
…なぁんであんなコト言っちゃうかなぁ。
貰った電話は嬉しくて、しかしどこかで素直になれない。
と、思っていたら、自分が一番聞きたいことを
ガーフィールさんに言われてしまう。
「どっちがホントのウィンリィちゃんなのかしら?」
面白い顔、とガーフィールさんが笑うので
えー? とあたしは困ってしまう。
「そんな変な顔してました?」
さぁ?とガーフィールさんはどこかからかうように言葉を返す。
「何かあったの?」
あの男の子からでしょう?と問われて、
あたしは素直にうなずく。
「そんなに心配なら、電話をしたら?」
あたしは肩をすくめて、首を横に振る。
連絡先は、知らない。
コイン1枚で繋がるあいつ。
コイン1枚で途切れるあいつ。
……あたしには、コインが無い。
「機械鎧壊したわけでもないのに電話してくるのって
変なのって、思って……」
繋がった先に聞こえた声に、安堵して、不安になる。
それは、くるくると面を変えてはあたしを煽る。
一重にも二重にも。
自分の気持ちがホントはどっちなのか分からなくなってしまうくらいに。
それなのに、短い電話で言えた言葉は。
言い足りなかった言葉を、あたしは飲み込む。
一度は言ったのだから、あとは信じるしかない。
それでも、確認しなかったことが、少し、怖い。
あたしの様子を見たガーフィールさんが軽く肩をすくめた。
「やっぱり、二十面相ね」
だって、とあたしは反論しようとした。
しかし、途中で口を閉ざす。
そして、思い直したように軽く声をはりあげた。
「大丈夫、ですよ」
繋がった先に聞こえた声に、
安堵して、そして、不安になる。
貰った電話が嬉しくて、同時に怖くなる。
…あたしは大丈夫。
あんた達は?
怪我してない?
危ないことしてない?
死なないでね。
言い足りなかった言葉を、あたしは飲み込む。
一度は言ったのだから、あとは信じるしかない。
それでも、確認しなかったことが、少し、怖い。
「さて。仕事仕事!」
何か言いたげなガーフィールさんを尻目に
あたしは中断していた作業を再開する。
電話は鳴らない。
だけど、気にしていないの。
鳴らないのは、「問題無い」しるしでしょ?
鳴らないならそれでいい。
無くたっていい。
なのになんでかな。
鳴った途端に、心臓が、跳ね上がった。
鳴らない電話がいざ鳴ったら、
また不安に駆られている。
それでもそれを飲み込んだまま、
あたしはまた鳴らない電話にやきもきするわけだ。
それをあいつにズルイとは言わないけれど、
どっちつかずの感情が、あたしの中を二分する。
どっちがホントのあたしなのか。
コインを持たずにあたしは不安に揺れて、
知りたいと思う以前に既に出ている答えを抱えたまま
それでもコイン1枚で繋がるあいつに、安堵している。
だから。
「大丈夫、ですよ」
あたしは言い聞かせるようにもう一度言った。
言い足りなかったことを振りきるように。
――コイン1枚ウラ×オモテ
(了)
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2006.2.25
3月号読んだ感想小説(てなんだ)
意味不明ですみません。コインで絡ませてみたかったのですが難しかった。
色々暗喩をこめてみたのですが、うむむ。ぼやけた感は否めない。
3月号の電話のシーン。
ジェットコースター?のように言動がいちいちコロコロ変わってしまうウィンリィに
か、可愛い…!と萌えてました。
「惚れた」と自覚したウィンリィの内心てどんなもんなんだろなと。
なんでもない風に装って、実は心の中ではぐるぐるしてたら可愛いのにと妄想してみました。