うす雲に隠れてはまた現れる月明かりがひどく明瞭な、ある夜のこと。
闇の中で、部屋の扉がそっと開けられるのを見てとる。部屋の外からの細い光の筋が、一瞬だけ部屋に差込み、すぐにそれは消えた。木の床の軋む音がゆっくりと息を潜めながら近づいてくる。
「エド。」
闇の中にぽつりと落ちるその声に、オレは息ひとつ立てることなく、ゆっくりと上体を起こした。
「……ウィンリィ。」
ベッドのスプリングがわずかに軋み、彼女が自分のほうへそろりと近づいてくるのが判る。伸ばされた腕を、ゆっくりと取った。
彼女が言いたいことはわかっている。
でも、今はまだだめなんだ。
彼女の手触りのよい髪をそっとかきあげ、白い額に唇を落とす。
髪を愛撫するその手をゆっくり肩へとおろし、
彼女を包んだ柔らかな布をゆっくりと剥いでいく。
卵の殻を剥くように白くまるい肩を露わにさせ、
そのまま彼女の形の良い胸が露わになるまで
衣服を剥ぐ。
彼女は、というと、
オレの服をゆっくりと脱がしていく。
前のあわせを取り払い、細いその指を滑らせるようにして
オレの身体に触れてくる。
触れる指先に熱が伝わる。
熱が生まれ、発熱し、オレの身体を焼く。
月明かりの下で、彼女の白い肢体がぼんやりと浮かぶ。
それはとても綺麗で、そんな彼女を見れて幸せだと実感する。
蒼い光に照らされた肢体を恥らうように、
彼女の目は伏せられていて、
伏せた睫のひとつひとつに陰が落ちる。
それさえもが愛しくて、オレは彼女のそこにもキスを落とす。
「判るだろ……?」
ウィンリィは小さくうなずく。
エドのどこもかしこも暖かくて、熱い。それが、判る。
「オレも、判るよ。ウィンリィを見るこの目があって……」
言いながら、オレは彼女の頬に口付けた。
「ウィンリィを感じる唇がオレにはある。」
だからね、とオレは囁いた。
「だから、アイツにも取り戻してあげたいんだ。」
ウィンリィはゆっくりとオレの首筋に顔を近づけ、
そこに唇を押し当て、赤いしるしをつける。
触れた部分が焼けるように熱くて、オレは目を閉じる。その感覚を全身で覚えておくために。
「でもね、あたしは……。」
唇を離しながら、ウィンリィが耳元で甘く囁いた。
「あんたが、好きなの。」
囁いたその声が、全身にしびれとなって伝わる。
「オレも、だよ…。」
かみ締めるようにそう言って、オレは返礼のようにキスをした。
彼女の首筋に。
今は、まだ、ダメ。
でも、
つけたしるしは、いつか掴み取る未来への約束の証。
(fin.)
2004.10.09
読み直したら顔から火が吹くかと思いました。個人的に恥ずかしくて書いていてしにそうになったので、一応性描写ないけどR‐15くらいに。