熱夜-2
子どもに混じってお菓子をねだるアルフォンスをようやく引っ張り出し、
エドワードはロックベル家へと戻った。
しかし、戻った時は、ウィンリィの姿は無く、
出迎えたピナコから、先に村の集会所へと行ってしまったと聞く。
「あいつ〜。」
苦虫を潰したように顔をしかめるエドを尻目に、
アルフォンスは貰ったお菓子をテーブルに広げてご機嫌な鼻歌を歌っている。
「僕は食べられないけれど……兄さん、食べる?」
しかし、エドワードはほとんどアルフォンスの話には上の空だ。
よかったな、ばっちゃんにも分けてやれ、などと言い置いて、
エドワードはロックベル家を飛び出した。
「あのバカ。オレを置いていきやがって……!」
別にエドワードはこの祭りを楽しみにしていたわけではなかった。
ただ、ウィンリィと一緒に行く、ということに意味があったのだ。
「ったく。ワケわかんねーぜ。自分で誘っときながら!」
苛々しながら独り言をつぶやき、エドワードはリゼンブールの夜道を進む。
ようやく、会場へたどり着くと、そこは一体どこからこんなに沸いて出たのかと
首を傾げたくなるような人でごったがえしていた。
こりゃ、村の人間だけじゃないな、とエドワードはひとりごちながら
熱気に蒸せる会場をきょろきょろと探し回る。
そして、見つけてしまう。
「……あんのバカが…っ!!」
エドワードは盛大にため息を落として、つかつかと彼女が座るテーブルへと近づく。
いつもと違う服装でテーブルについている彼女の周りを、
2〜3人の知らない男が囲んで何やら騒いでいる。
「ウィンリィ……!」
三秒ほどの間を置いて、彼女が振り返った。
「あ〜エろぉ〜。」
えろ、じゃねー!!と怒鳴りたくなったが
とりあえずその場では努めて抑え、「帰るぞ」と彼女の腕をひっぱる。
近づいたとたんすぐにそれと分かる匂いはアルコールだ。
エドワードはくらっと眩暈を覚えたが、なんとか踏みとどまる。
「なんだ?このチビっ!」
と、囲んでいた男の一人が、エドワードの肩に掴みかかる。
チビ、じゃねー!!とここでも怒鳴りたくなったが、ここは我慢だ。
へべれけに酔っている彼女を連れ帰るのが先決。
テーブルの様子を見ればそこで何があったかすぐにわかる。
散らばったトランプに、いくつも空いた酒瓶。
「よってたかって女ひとりに飲ませやがって!」
金の両目が、掴みかかる男を射るようにまっすぐと睨みつける。
本当なら、この場で全員タコ殴りしたいほどエドワードは怒り心頭だったが、
場所は祭りの会場のど真ん中で、人もいる。
なによりも、ウィンリィを早く連れて帰りたかった。
だから、とりあえず、自分の感情を我慢して抑える。
「どけ。こいつはオレの女だ。」
その様子を見ていた残りの男が、エドワードの銀時計の鎖に気がつく。
「お、前……まさか、国家錬金術師?」
「こんなチビが?」
国家錬金術師といえば、軍属の人間兵器。それを知らない者はいない。
勢いを削がれた男はエドワードの肩から手を離し、
エドワードはウィンリィを引っ張って会場を出る。
普段は軍の狗として嘲りの対象だった銀時計が思わぬところで役に立ってしまった。
「もぅ〜歩けないぃ〜。」
道の途中でへたり込むウィンリィを、エドワードは苛々としながら引っ立てる。
「いい加減にしろっ!この酔っ払い!」
しかし、酔っ払いには何を言っても無駄である。
うるひゃいわよぅ〜と呂律の回らない言葉を発して立とうとしない彼女をどうにか立たせて、
道の脇にある木立へと引っ張っていく。
木に背中を預けるようにしてウィンリィを座らせると、
エドワードは、先ほど去り際に貰っておいた水を飲ませようとする。
しかし、酔っ払った彼女は、「もぅう、飲めにゃい……」と嫌がる始末。
このバカが、と小さく呟いて、エドワードは自分の口に水を含み、
無理矢理ウィンリィの口の中に流し込む。
くぐもった声を出しながら、なんとか水を飲み干す彼女を見ていて、
エドワードはどんどん険悪な気持ちになっていく。
……このままここで襲ったろか、コイツ!
さすがに、それはなんとか理性がヤメロと言ってくれたが、
このままじゃ収まりがききそうにない。
水をすべて飲み終えた彼女の目はとろんと据わっており、なんだか赤く充血しているようだ。
「え、ろぉ……」
などとまた呟いている。
「えろ、じゃねぇよ。バカ……。」
黙れ、と言わんばかりに、エドワードはウィンリィの唇に、自分の唇で蓋をする。
酒臭い。
自分まで酔いそうになる。
いや、そうじゃない。もう既に自分は酔っているけれど。
そう、ずっとずっと酔っている。……彼女に。
エドワードは唇を離して、小さく息をついた。
目の前の彼女は眠りに落ちようとしている。
「しょーがねーな……。」
エドワードは彼女を背中に抱えて、よっこら、と歩き出す。
彼女のしなやかな金髪がさらりと揺れて、自分の首筋をくすぐった。
そして、何よりもオレの意識を浮つかせるのは、
密着した背中に感じる彼女のやわらかな胸。
手で触らずとも頭の中ですでに形を描いてしまっている自分に自分で呆れたが、
仕方がない。
「なんだか、オレ、我慢してばっかりだな。」
思わず独り言を呟いてしまう。
しかし、これも仕方ない。
……すべては彼女にこんなにも酔っている自分のせいなのだから。
甘んじて受けよう。
理性と本能が戦っているのを頭の中で自覚しながら、
エドワードはよいしょ、と彼女を支えなおし、ロックベル家へつながる
夜の一本道を進みだした。
(fin.)
2004.10.12
さりげなく「オレのもの」発言させたくて…。それにしてもやっぱ飲酒年齢制限ってあるんですかね…?書き終わってからハタと気づいた事。
⇒「21.ミステイク」に、理性より本能が勝ってしまったエド氏ヴァージョンを書いてしまいました…。(【注意】性描写あります。閲覧にはご注意ください。)
「79.酔ってる?」や「13.イタズラ」の流れをお気に召した方は読むのは止めたほうが…。
とにかくオチが最悪です。不快に思われる方がいらっしゃるかもしれません。
閲覧はよく吟味?した上でするかどうかの判断をどうぞ。
(裏路地から見れます)