88.視点
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陰、踊る-1


ウィンリィが鏡を見ている。
どうしたんだろうと思いながら後ろから抱きすくめてみた。

「なに?」
回された腕に掌を乗せながら、
ウィンリィは後ろを振り返ろうとするが、それは阻まれる。

顔を見なくたって誰だか分かる。
部屋の扉がきぃっと音を立てて開く気配にさえも
心臓がコトンと撥ねたほどだ。

エドワードは明日旅立つ。
彼が今日、この晩に、自分の部屋に来たということは
つまりそういうことだ。
鏡の前に立って、自分に変なトコが無いか確かめてみる。
これから全部見られるんだと思うだけで眩暈がしてくるのは、
未だに慣れていないからかもしれない。
ウィンリィは内心息をついた。
……慣れる日なんて、来るのかな。

まるで何かの定められた儀式のように、
エドワードはぴったりと自分の身体を寄せてくる。
抱き寄せた腕が、戯れのように胸に触れてきて、
ウィンリィは身をよじる。
「…なに、見てんの?」
低い声が耳に落ちてきた。
ウィンリィは心臓がさらに高鳴るのを感じながら、
鏡から足元へ、視線を彷徨わせる。
「別に……なんでも、ない、よ」
足元には、二人分の影が床に伸びる。
カーテンの開け放たれた窓からは、
淡い月の光が落ちている。
柔らかな光の下で正面に視線を戻せば、
鏡の中でエドワードとかちりと視線が合った。


目が、離せなくなる。


みじろきしないまま、月明りの陰影の下で見詰め合う。

「な、に……?」
耐えられなくなったのは、ウィンリィのほうだった。
壊れそうだ、と思った。
心臓が、激しく波を打つ。
見られているだけなのに。

うながされるように、エドワードの口が重く開いた。
「お前……。なんか、その……」
エドワードは視線をはずさずに、ぼんやりと言葉を継ぐ。
しかし、続きがどうしてもいえない。
月明かりの下、二人して陰を踏みながら立っている。
蒼い光を弾く金髪をふわふわとさせながら、
顔をわずかに赤らめ、目を伏せがちにしている彼女の全身を
エドワードは改めてまじまじと見つめてみる。
ここまでじっと見つめたのは、実は初めてかもしれない。
「な、によぅ…」
不安になってきて、ウィンリィの声は小さくなる。
どこか自分は変なのか。
そんな彼女の小さな唇が鏡の中で動くのを見て、
エドワードは妙な衝動に襲われる。
「ねぇ…エド……?」
何も言おうとしない背後のエドワードを伺おうと顔を向けるウィンリィの唇を、
エドワードはとりあえず頂く。
唇を奪いながら、エドワードの視線だけは鏡に向けられたままだ。
キスの応酬に必死に目を閉じて応える彼女の肢体は震えていて、
のけぞる白い首筋にかかる金の髪がふわふわしながら月の光を蒼く弾く。
なだらかな曲線を描く胸の上までハニィブロンドは波打ち、
その上に置かれたエドワードの腕の動きを阻むように、
彼女の白い腕が絡まってくる。
自分の動きに呼応するように彼女の胸は上下し、
もつれるように絡む足が身じろきするようにわずかにたたらを踏む。

唇をようやく解放されて、
ウィンリィは甘い眩暈に全身が痺れるのを覚える。
崩れそうになる身体は、背後のエドワードによって支えられた。
「お前、さ。」
止まらない動悸を途方も無く感じながら、
ウィンリィは首をのけぞらせながらエドワードの言葉を待った。
涙に潤むウィンリィの瞳を覗き込みながら、
エドワードはヤバイなぁと心の中で思う。
……どうしよ。すげぇ可愛いかも。

それは月明りのせいか、鏡のせいか。
原因は知らない。
ただ、改めて気づかされている。

「…お前、ホント、飽きねぇよ。」
は?と、我に返ったようにウィンリィはエドワードを向く。
「…っ何よ…それぇ…!」
けなされていると思ったウィンリィは
思わずエドワードに掴みかかろうとしたが、
ちょっとおとなしくしろよ、と言うエドワードの腕にはかなわない。
「……あっ…」
首筋を噛むように唇を這わされて、
ウィンリィは身をよじった。
イタズラするようにそろりと手が胸を這う。
それが全部、鏡を通してウィンリィの目に写る。
「や……」
逃れようとしても、無理だった。
「このままで。」
恥ずかしくて首を必死に振るウィンリィをよそに、
エドワードは無慈悲にも言葉を落とした。
「……このまま、しようぜ。」

…ホントに飽きない。
別の見え方があるなら、もっと見せて。
全部、オレに見せて?

「え……ヤ…だ…ぁ?」
抵抗の言葉さえも、ウィンリィは奪われる。


逃れようとするウィンリィをしっかり抱き寄せる。
やだ、と言いながら、顔を赤くして肩越しに自分を睨むウィンリィに、
エドワードはぼそりと言った。


「ほら。オレじゃなくて。……鏡見ろって。」
すげぇ可愛いから、という言葉を飲み込んで、
月明かりの下、エドワードは彼女の服を脱がしにかかった。



(fin.?)







2005.1.4
視点というより視線?あ、視姦?(おいおい;)
まじまじと見られるってすんごい恥ずかしいと思うのですよ。(てそれ以前の問題な気もしますが)
ここでやめればいいのに、鏡の前でプレイを書いちゃう辺りどうかしてると思います、自分。
ということで予告ですが、多分「81.嫉妬」に続きを。(予定です。あくまで。変更になるかも。)
次回更新時にでも。

2005.1.9
「81.嫉妬」に続いています。よろしければそちらもどうぞ。(R15)




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