あいたい-1
「やらなきゃいけないことがあるんだ。」
そう言って、出て行った彼は、戻ってこなかった。
戻ってきたのは、肉体を取り戻して記憶をなくしたもう一人の幼馴染。
「母さんを蘇らせようとして……それから……。」
思い出せないんだ、とアルは言った。
「兄さんは、どこに行ったの…?」
それは、あたしも一番聞きたかった。
夜、唐突に目が覚めてしまうの。
静まり返った闇の中で両手を伸ばしてみる。
目を閉じたまま、闇を泳ぐように腕を伸ばすの。
あなたがあたしの手をとって、不敵ににやりと笑ってみせる。
そんな光景を脳裏に浮かべて。
けれども、目を開けてみれば、そこはただひたすらに沈黙が落ちる暗闇だけ。
どこへ行ってしまったの…?
帰らないあなたをいつも待っていた。
それでも、あなたは必ず帰ってきていたから。
約束なんかしていない。
していないよ。
でも、あなたは必ず帰ってきていた。
いつものとは違う。
いつもと同じように考えられるわけがない。
あたし達は確かに約束なんかしていない。
でも、あなたを責めるのは間違いなの?
生きているのか、死んでいるのか、それさえも判らない。
ドアのチャイムが鳴れば、思わず飛び出してしまう。
電話が鳴れば、とくんと心臓が撥ね上がる。
手紙が来れば、期待に胸が躍ってしまう。
あなたが消えたまま、毎日は同じように流れていって。
あなたが残した全てが、色褪せていく。
ぬくもりも、声も、笑顔も、怒った顔も、すべて。
全てが指の間を抜け落ちる砂のように儚く流れていく。
眠れないまま夜は流れ、朝は来る。
期待と失望が背中合わせに重なる、朝が。
あなたを責めるのは間違いですか?
自信がない。
あなたがいない毎日を繰り返して、あたしの手の中で確かだったものがどんどん消えていくの。
心の中には、まるく落ちた空洞があって、涙でひたひたにひたされていく。
昇る朝陽をみつめながら、涙が枯れていることに気づいた。
流しても流しても、涙でひたひたになっていく。それを何度も何度も枯らして。
それでも、あなたはいない。
自信がないよ。
「あたしは……そんなに、強くなんかないよ……。」
呟いた言葉は、朝陽の中に溶けていく。聞いてくれる相手のいないまま。
眠れないまま夜は流れ、朝は来る。
期待と失望が背中合わせに重なる、朝が。
同じことを繰り返し願うあたしは愚かなのかしら?
朝がくるたび、託すように願っている。
ひたすらに、同じことを願っている…。
ただ、ひとつだけ。
あなたに、あいたい。
(fin.)
2004.10.10
混乱する自分の感情をただ垂れ流しただけの文章。お目汚し、申し訳ありません。