「手に手をとって帰る場所」(エドウィン小説本サンプル)
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6.展翅-TENSHI-




 ひらひらと蝶が舞っている。蒼い羽を羽ばたかせながら、目の前をふらふら通過しようとするそれに、エドワードはすっと手を伸ばす。しかし、蝶は、逃れるようにすいっと彼の手をすり抜けて、窓の外へひらりと飛んでいく。
 空を掴んだ自分の手を見つめながら、エドワードはひとつ、息をついた。
(おもしろくねぇなぁ)
 胸内で呟いてしまう自分を自覚して、一拍の間を置いてから自己嫌悪が残る。そんな風に思う自分が、嫌だった。―こんな気持ちが彼女に悟られたら。それを思うと、いたたまれない。
「その蝶と同じ標本があるのよ」
 ふと、声がして、エドワードが顔を上げれば、ガーフィールが立っている。
「へぇ……標本?」
 エドワードは整備のために、ウィンリィの修行先のガーフィールの所を訪ねていた。ガーフィールは、ほら、と戸棚の中のガラス張りの箱を示す。
「これよ。……綺麗でしょ?」
 エドワードが目をやれば、蒼い羽をいっぱいに広げた蝶が、展翅針に串刺しにされて、飾られていた。
「これ、腐らないんだ?」
「そ。ずっと、時を止めたまま。」
 永遠にこの美しさを保つのよねぇ〜と、うっとりとした表情で語りだすガーフィールに、エドワードは、はは……と乾いた笑いを浮かべた。と、その時だった。
「エドぉ〜?」
 彼女の声がする。なんだよ、と振り向くと、部屋の入り口でウィンリィが手招きしている。
「あんたの番よ」
 エドワードはもうひとつ、息をついて、面倒くさそうに立ち上がる。そんな彼が何を言いたいのか悟ったウィンリィもまた、ため息をついた。
「しょうがないでしょ。順番、順番」
「へーへー」
「何、その返事」
「……別にぃ」
 腕組みしながら不思議そうに首をひねるウィンリィをエドワードはちらりとひとつ見て、すぐに視線をはずした。
「―気持ち悪ぃ」
「え?」
 呟いた言葉に、彼女の瞳が揺れた。
「……なんでも、ねぇよ」
 慌ててぽそりと取り繕った。ウィンリィは変な顔をしている。
「なんなのよーもう」
 ほら、こっち、と案内する彼女の前を、「ありがとうございます、ウィンリィさん」と彼女に礼を言う男がすいっと通り過ぎた。エドワードの知らない男だ。おそらく、ウィンリィの顧客なのだろう。「いいえー」と、その男に手を振って送り出す彼女の揺れるような笑顔に、エドワードはもうひとつ、ため息をついた。


 †展翅―TEINSHI―†


「もう! なんでこんなに酔っ払うのよッ!」
「………」
 うるせーと言おうとしたエドワードの言葉はかすれて音にならない。頭がぐらぐらする。寄りかかっているのは彼女の身体だ。ああ、だからか、とエドワードは一人合点する。なんだか落ち着かない。
「おまえ……手ぇ、離せ」
 しかし、ウィンリィは聞かない。
「いいから! おとなしくして! ほら、今日はここで寝るの」
 階下では、まだガーフィールやリンの騒ぐ声がする。ガーフィールのところで一晩とまることになったのだが、食事の席はなぜかどんどん宴会になっていってしまった。「可愛い男の子は大好きよ」なんてハートマークまで飛びそうなガーフィールと、悪ノリしたウィンリィにのせられて、いつの間にかうっかり酒まで飲んでしまったエドワードは、いい加減にしなよという弟の制止にようやく我に返る。が、既に時遅く、酔いは身体中に廻ってしまっていた。
「歩ける、から、手ぇ、離せって……っ!」
 ベッドのところまで彼女に運んでもらうなんて御免だった。今の自分は内心、ぐちゃぐちゃだった。ぐるぐると変な気持ちが渦巻いていて、それが嫉妬だと気づいて自己嫌悪がする。
(馬鹿馬鹿しい。嫉妬なんて出来る立場かよ)
 自分達が前に進むと決めたように、彼女も彼女の道を行くのだ。それが、自分の腕のためでもある、とエドワードは知っていた。だから、こんな嫉妬は、はっきり言って見当違いなのだ。
「意地張らない! ほら、すぐそこよ。そこで休んで!」
 しかしウィンリィはエドワードの手を離そうとしない。
(ああ、バカだ、コイツ)
 見当違いの毒をつくのは、自分が酔っ払ってるせいなのかもしれない。どうしても、嫌な衝動が身体を走る。目の前の彼女に意地悪したくなる。
「…あ……!?」
 自分を寝かせつけようとする彼女を、逆にベッドに押し倒した。ぐらぐらと揺れる目の前に、彼女の顔が見える。「冗談やめて」という声が耳に響く。冗談? 冗談なわけがない。
 朦朧とする頭に、不意に、ひらひらと舞う蝶が思い出された。なぜだかは分からない。自分が酔っ払っているからかもしれない。
 自分の手の間をすり抜けるようにして空に溶けていったあの蒼い蝶。綺麗でしょう? というガーフィールの声が脳裏に聞こえた。―逃げるなら、つかまえるだけだ。展翅して、自分だけのものにする。

「エ…ド…?」
 不安げに声をあげる彼女の唇を塞ぐ。
「なんでぇ……?」
 潤んだ瞳で、ウィンリィはエドワードを睨む。エドワードは服を脱ぎながら、ウィンリィの言葉を遮るように唇を奪う。
「ん…んんっ…!」
 逃れるように身をよじるウィンリィを押さえつけるようにして、エドワードはキスを続ける。
「や……っ! …エド…っ」
 ウィンリィを自分の身体の下に組み敷いたエドワードは彼女の服を脱がしにかかる。
「ちょっと……待って…待って……」
 自分の服を脱がそうとするエドワードの手を阻むようにウィンリィの手が絡む。しかし、「邪魔」という低い呟きとともに、ウィンリィの手は頭の上で押さえつけられる。
「…あばれんな」
「……あ…ばれてるのは、アンタでしょ…ッ!」
「おまえのせいだよ」
 はぁ!? と反論しようとするウィンリィの口を塞いで、彼女の両手首を、引きちぎったシーツで縛る。
「やだ…っ! こんなの……」
「だまってて」
 片手でウィンリィの手首を押さえつけたまま、エドワードはどんどん彼女を裸に剥いていく。
「やだ…ぁ…お願い、エド……」
 エドワードは不意に、ウィンリィの耳元に唇を寄せる。ぺろり、と耳たぶを一舐めしてから、エドワードは囁くように言った。
「あんまり暴れると、……下に聞こえるぜ」
ぎくり、とウィンリィは身体を強張らせる。階下では、まだガーフィールやアル、リンがいるはずだ。遠巻きにまだどんちゃん騒ぎが聴こえる。
 暗がりの下で、エドワードは薄く笑う。
「そーそー。聞き分けがよくて助かる」
「………ぁっう…!?」
 ウィンリィの身体が魚のように跳ねる。むき出しにされた白い肌の上には、蒼い月明かりが淡く降っている。エドワードは、彼女の下腹部のさらに下へと手を伸ばす。最初は触れるか触れないかという微妙な手の動きを見せ、徐々に粘質に彼女のそこを嬲っていく。
 生身の方の指で、ウィンリィの入り口を音を立てながらかき混ぜると、そのたびに、噛み殺すような呻きにも似た嬌声が彼女の唇の間から漏れる。
「気持ちいい?」
 彼女の両胸に交互に唇を落とした後、囁くように聞いてみた。しかし、ウィンリィは何も言わない。
「それとも、こっちがいいか?」
 エドワードは、機械鎧の方の指を示す。ウィンリィはわずかに首を振る。
「……なんだよ。言わねぇとわかんねぇよ?」
 ウィンリィは震えるように、痛いのは嫌、と小さく呟いた。へぇ、とエドワードは軽く笑う。
「じゃ、気持ちいいのがいんだ?」
 そういう意味じゃなくて、と慌てたようにウィンリィは何かを言おうとしたが、それは途中で阻まれた。ついばむように唇を激しく交わしながら、エドワードの指はウィンリィの中にどんどん侵入していく。人差し指と中指で中をぐちぐちとかき回しながら、親指で、彼女の敏感な嘴をくりくりと押さえつければそのたびにウィンリィの身体は波打った。
「だ…め……ぇ…イキ…そ…」
 息を吐き出すようにしてウィンリィは言葉を継いだ。エドワードの腕にしがみつく。エドワードはキスをしながら、どんどん指の動きを早めていく。
「あ、あ、……っあぁ……っ」
「……いーよ。…イって?」
「や…ぁ…っ」
 背中を思い切り反らせながら、ウィンリィは達する。が、エドワードの指の動きは止まらない。
「やぁ…やっ、やだっ…おかしくなる…っ!!」
「気持ちいいのがいんだろ?」
 だったら、もっと鳴いて? とエドワードは容赦なく指で攻めたてる。
 指に飽きたのか、エドワードはようやく彼女のそこから自分の指を引き抜く。ぺろりとひと舐めしてから、それをウィンリィの口元にもやる。
「なめて」
 達した余韻でウィンリィは恍惚とした表情を浮かべている。彼女の珊瑚色の唇の間に指をふくませながら、エドワードはウィンリィの髪を梳く。扇形のように広がりシーツの上で波打つ彼女の髪は、蒼い月の光を淡く弾いている。
「……蝶、みたいだ」
「……?」
 涙に瞳を潤ませながら、ウィンリィはエドワードを見上げる。
 ひらひらと舞って。誰にでも愛嬌振りまいて。気まぐれに羽を休めて、また飛び立つ。―言えるわけがない。
 エドワードは唇をかみ締めた。昼間、働いているウィンリィを見た。笑うウィンリィを見た。どんどん、変わっていく。リゼンブールを出て、ラッシュバレーで働くようになった彼女。自分が知らないうちに、彼女がどんどん変わっていくような気がする。それが、なんだか、恐い。
 変わるのは当たり前だと分かってる。自分達も前に進もうとしている。そして、ウィンリィも。でも、時々、ふと恐くなる。それを思うのは我侭だと分かってるのに。矛盾だと分かってるのに。
「エド……?」
 ウィンリィが不安げに呼ぶ。
 エドワードはゆっくりとウィンリィの頬を指先でなで、キスをする。
「今だけ」
「……え?」
「今だけは」
―今だけは、オレだけの蝶でいて? 夜だけは。オレだけに全部見せて?

「エド……?」
「なんでも、ない」
 エドワードはウィンリィの両脚を割る。
「……は…ぁ……」
 切なげな声が、ウィンリィの唇から漏れる。先ほど達したばかりのそこは、とろとろに蕩けていた。
「鳴いて?」
「……エ……ド…ぉ……っ!」
 エドワードは、彼女の足の間に顔を埋める。舌先で、ひくつくそこを舐めあげれば、ウィンリィの声がひときわ高くなる。
 蝶が鳴いてる。そんな、気がした。
 展翅針に刺して、標本箱の中に大切に仕舞っておくことは、出来ない。分かってる。だけど、今は。
「今は、オレだけのものでいて?」
 ウィンリィの足を割り、自分の身体をその間へ入れる。
「あ」
 ウィンリィが身体を捩る。逃さない、とでもいわんばかりに、エドワードは彼女を押さえつける。そして、先ほどから猛っていた自分の性器を彼女の入り口にねじ込む。
「…や…あ……あ…あっ…」
 泣き喘ぐウィンリィの声だけが、暗闇に響き渡る。自分の目の前で揺れる小さな両の果実を交互に口に含んで、エドワードは彼女の中をかき回すように動いた。時に深く、時に浅く、緩急をつけながら動けば、その動きにあわせるようにウィンリィの喘ぎ声も変化する。縛られた両手で、ウィンリィはエドワードの首に腕を回す。揺れる胸の間にも舌をついっと這わせながら、エドワードは息を荒げながらひたすらウィンリィを鳴かせる。
「お…まえ、…すっげ、感じ、すぎ…っ」
「だ、だって…ぇ……あ…あ…」
 自分の背中に爪を立てるほどにしがみついてくる彼女を抱えなおしながら、エドワードは浅く息を吐きながら、は、と笑う。
「縛られ、てんの、感じてる、とか?」
 涙をぼろぼろ流しながら、ウィンリィが睨むように目を開けた。
「……バカ…っ…あ……ぁはぁ…」
 だめぇ…とウィンリィがひときわ高く声を上げた時、エドワードはずるりと自分の一物を引き抜く。




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