サンプル:「あなたを堕とすたったひとつのアリア」
前頁 



 燐はわけがわからなかった。自分よりもいくらか図体の大きい弟に、ベッドの上で組み敷かれてしまっている。どうしてこんなことになったのかわからなかった。
 だがしかし、互いの唇に触れた瞬間、かつて味わったことのないような甘美な味が脳裏に麻薬のように広がったのだ。その事実に、燐はただただ声なくして驚いていた。
(これは、なんだ)
 燐は混乱する思考の中で自問する。
(この、感情は、なんだ……?)
 雪男は無言だった。彼は鎖に縛られたままの燐の制服のボタンをはずし始める。そして、すべて外し終わらないうちに、制服の合わせから手を差し入れてきた。燐の胸にそそり立つ敏感な先端の感触を確かめるように、親指と人差し指で摘んでコリコリと愛撫する。そのうち、制服の上からでは足りなくて、上着を全部脱がされる。前を合わせていたボタンを幾つか外せば、サクランボのように紅い乳首が零れるように飛び出てきた。その可憐な赤い実に、雪男は顔を近づける。は、と息をついて、燐は逃れようと身をよじった。しかし、鎖に縛られた燐に、逃げ場はない。
「や、めろ……っ!」
 燐は息を乱しながらもようやくそれだけ吐き出す。
「なん、で……っ…こんなッ……!」
 しかし、雪男は構わなかった。抵抗する兄を身体の下に組み敷くようにして体重をかけ、押さえつける。
「やめろ……ゆき、お…ッ! やめろってば…ッ…!」
 しかし燐の抵抗の声は途中で掻き消える。
「ッぅ……うぁッ……!!」
 それは知らない快感だった。
 両方の紅い実に口付けられて、交互に吸われる。やめろよ…と言う燐の声は震えるように小さくなった。ちゅ、ちゅ、と啄むように唇を使って吸い始める雪男の頭を、燐はなんとか押し退けようとする。しかし、雪男の力は圧倒的だった。サタンの血が流れる燐の力で以ってしても、雪男の前には通用しない。
「っあ……! あッ…あぁッ……!」
 ちゅ、ちゅ、ちゅる、と卑猥な音が部屋の中に弾ける。両の乳首を唇と指を使って雪男に嬲られて、燐は声を漏らす。知らない快感だった。こんなのは初めてだったのだ。なんだこれ、なんだこれ、と燐の思考回路は混乱していく。そして追いつかない思考とは裏腹に、燐の身体はビクビクと震え、雪男の愛撫に素直に応えていた。はぁはぁと息を乱しながら片目をあけると、視線の先に、胸に舌をのばす雪男が見える。
(これは、なんだ…)
 抵抗する力が弱くなっていく。施される快感に蕩けそうになっている。燐は混乱していた。どうして弟がこんなことを始めたのか皆目わからなかった。理由がわからない。わからないことをされるのは、怖い。
「…………っ…ァ」
 燐の身体がぴくんと跳ねた。息を呑んで、燐は耐える。雪男の指先が、制服のズボンの中にするすると入り込み、燐の下腹部のさらに奥へと差し込まれたのだ。
 下着の上から、雪男の指の腹で、形をなぞるようにして撫で上げられる。腰が逃げるように動いたが、雪男の右手がそれを阻んだ。逃げ腰の燐を固定するように横抱きにかかえると、燐の敏感なそこを、左手で下着の上から握りしめると上下するように弄り始める。
「……ぁ……ぁァ……」
 抑えようとした声は余計に甘い響きをもって燐の唇の間から零れていく。こすられたそこは、燐の混乱する思考とは裏腹に、緩やかに固くなりはじめていった。
 下着の上からが物足りなくなってきた雪男の指が、燐の下着の端から侵入してくる。くちゅ、と粘着質な液体が雪男の指先に絡む。しかし、誰との経験も未だ無い燐は、あまり濡れていない。
「リラックスして……兄さん」
 徐々に固くなっていく兄のそれを手でゆっくりとしごきながら、雪男は兄の耳元で囁く。
 そそり立ち始めた燐のその切っ先に、雪男は人差し指の腹を当てる。丸く膨らんだ鈴口の先にある溝に、ついと指を走らせた。
「っう…ァ…ッ!」
 ビクンと燐の身体が震える。雪男は繊細な手つきで、兄のそこをすりすりと撫で上げた。ビクビクとひくつきながら、燐の肉棒は形を大きくし、切っ先からはぬるぬるとした液体が溢れ始める。
「そう……いい子だね……兄さん」
 雪男は低く呟く。すりすりと手の中での愛撫は続けたままだ。
「や……め……ゆっ…きお……!」
 はぁはぁと息を乱しながら、燐は雪男の顔を振り仰ごうとする。しかし、真横から抱きしめられる形で弟から嬲られている燐には、雪男の顔を見ることが出来ない。
「な……んでッ……こんなこと…! あぁッ……!」
 雪男の愛撫に打ち震えながら、燐は蕩け始めている思考をなんとか手繰り寄せて、弟に問う。
「兄さんを、救うため、だ、よ」
 は、と短く息を切らしながら、雪男は答えた。しかし、手の愛撫は止めない。手の中に握りしめた兄のそれをしごく手をどんどんどんどん早めていく。
「兄さんを、守るためなんだ。……だから、我慢して…?」
 切なげに息を短く切らしながら雪男は燐に請う。どうしようもなく雪男は興奮していた。夢にまで見た兄が、あられもなく自分の目の前で喘いでいるのだ。これが興奮せずにはいられなかった。
(俺を、守るため……?)
 見知らぬ快楽に身が焦げそうになるのを感じながら、燐は弟の言葉を意識の片隅で復唱する。わけがわからなかった。それがどうして、こんな恥ずかしい行為につながるのか、理解できなかったのだ。
「あっ……あっ…あ……ゆき、お…ッ!」
 両手を未だ戒められたままの燐は、雪男に抱きすくめられながら、ビクビクとのたうつように身体をのけぞらせる。そそり立つ燐のその肉棒を、雪男は激しくしごいた。
「あっ……あっ……あ…ッ!! だめ、だ……ッ! やめっ……やめてく、れ……!」
 出る……! と燐はひときわ激しく喘いでビクンッと大きく震えた。その瞬間、真っ白な精がパタパタッと雪男の手を汚す。
 はぁはぁと息を乱した燐は、全身からどっと力が抜ける。重みを増した兄の身体を、雪男は優しく後ろから抱きしめた。
(かわいい……兄さん)
 顔を真っ赤にさせ、涙目になりながら肩で息をする燐の様子は、ひどく扇情的だった。雪男の欲望はむくむくと頭をもたげる。兄を手に入れたい。支配したい。自分の物にしたい、と。
 半分脱がせた兄の制服のズボンを全部剥がすと、雪男は己が身にまとう祓魔師の制服を脱ぎ捨てた。
 暑い。熱いのだ。
 全裸に剥いた兄は、鎖に両手を縛られたままだ。外すのはまだだ、と雪男は思った。途中で兄に逃げられたら敵わなかった。
 外れない鎖をガチャガチャと鳴らしながら、燐は未だおさまらない息を乱しながら、雪男を睨む。
「なんで、こんなこと……!」
 眩暈がしていた。全身が焼け付くほどに熱い。それに対し、雪男はいたって冷静な様子だった。わけがわからなかった。守りたいと言いながら、こんな行為をする。理由がわからない。
「兄さんを守るためなんだ。…言うこと、聞いて?」
「やめろって。もう……」
 さっきイってしまったばかりだ。それなのに、雪男がやろうとしていることが何なのか悟って、燐は腰をシーツの上で引きずるようにして後ずさる。
「大人しくしてて、兄さん」
 頼むから、という言葉はもう声にしなかった。雪男は燐の華奢な足を両手で持ち上げ、無理やり押し広げる。




前頁 
template : A Moveable Feast

-Powered by HTML DWARF-