「あたしは同じ場所に立ちたい。
…エド達が何を見て、何を感じて、何をするのか」
「わたしはね、同じ場所に立てなくてもいいと思っているのよ」
―――「こうしてあの戦場で朝を何度も迎えました」
「……」
ロイは目を閉じたまま、ああ、と小さく言った。
「あの砂漠の地で、錬金術師がひとり、
焼き尽くされて焦土となった真ん中で、
赤い朝陽に向かって立っていたんです」
「……」
「今思えば青臭いと唾棄される論を振りかざしながら、
赤い朝陽の中あなたが立っていた」
「……」
「それが、忘れられません」
■本文サンプル
リザは小さく笑んだ。顔を赤らめたその少女に、追い討ちをかけるように言う。
「エドワード君のこと、大好きなのね」
彼女の表情の変化を、なんだか面白いと思いながら、眺める。どこか甘酸っぱい、郷愁にも似た感情が胸に満ちるのを感じながら、リザはウィンリィを見つめた。
この少女に言ったらどういう反応をするのだろう。殺す手ではなく、作り出す手を持っているこの少女に。
どこか気恥ずかしいものを覚えながら、リザは言った。
「私もね、ウィンリィちゃんの長い髪を見て、髪を伸ばそうと思ったのよ」
ウィンリィの表情の変化は忙しない。くるくるとめまぐるしく変わる彼女の顔色に笑いをかみ殺しながら、リザは言った。
「私も、あなたになりたかったのかもしれない」
殺すのではなく生かす。自分がかつて失った、かつてはもしかしたらあったかもしれない道。
いや、違うな、とリザは心の中で首を振った。ありえない。道を選んだ以上、それはありえない。もしもは、無い。
だからこそ夢見ることが出来る。手を伸ばしても届かない光は、それでも光として離れたところから見ることは出来るのだ。
それは、過去形だけれども、現在形でもあり、現実ではないけれど、夢でもない、かなわなくてもいいただの願い。
「だから、お互い様ね」
一瞬の間を置いて、昼下がりの軍司令部に、珍しい笑い声が二つ、響き渡った。
それにしても、ピアスはどこに行ったのかしらね、とリザは思い出したように辺りを見回す。
「ウィンリィちゃんも。……大事なピアスなんでしょう」
ウィンリィは少しばかり表情を曇らせたが、思い直したように、努めて明るい声を出す。
「でも、あげた本人からなくしたの気にするなって言われちゃったし。……大事にしてるの、なんかバカみたい」
やっぱり、わかんないんです、あいつのこと、とウィンリィは少しばかり赤い顔をしながら小さく呟いた。
「それに、あいつひどいんですよ。『ホークアイ中尉と揃いのピアスしたところで中尉とは雲泥の差だ』なんて言って!」
リザはくすくすと笑った。
「笑わないでください! あたしは真剣なんですから!」
むぅっとウィンリィは頬を膨らませる振りをすると、ごめんなさい、としかし笑いながらリザは謝る。
「それはたぶん、きっと……」
リザは小さく言おうとした。あの少年なりの、照れ隠しかもしれないよと。
しかし、リザは言わなかった。それを言うのは、たぶん自分の役目ではないだろう。