■小説:「シュレディンガーの猫は泣く」Introduction
⇒お読みになる際は下述の注意事項もあわせてご覧頂ければ幸いです。
|
「愛して、という言葉が、助けて、と言ってるように聞こえたんだ」
|
「泣かないで?」
掠れた声で、彼女が言った。
「あなたに会えて、嬉しかったのよ?」
だから、この二週間、手紙を出さなかったの、と彼女は告白した。
「あの赤いポストに、……あたし、もう手紙を出していないの」
エドワードは目を見開く。それが何を意味するのかを、悟る。悟ってしまう。
「……なのに、手紙が、とどい、たの」
彼女は掠れた笑みを浮かべる。
貰った手紙が「あなた」からだったから、嬉しかったのよ、と。
|
箱の中の猫は生きているか死んでいるか。
それは50%の確率。
箱を開けるまで、猫がどうなっているか分からない。
これ以上踏み込んではいけない。手紙を、受け取ってはならない。
だが、もう遅い。
事実を言ってしまえば、彼女を失ってしまう。
それは50%の確率以上に正しすぎる真実なんだ。
じゃあ、どうすればよい?
誰も救えないまま
この傷を抱えて、この世界で生きていくしかないのか?
|
【あらすじ】
1924年、ドイツ首都ベルリン。
ワイマール政府下にあるドイツは
先の大戦からの復興を目指し激震していた。
そんななか、
自らの世界の道を断ったエドワードは、
弟アルフォンスとともにベルリンで暮らしていた。
あの世界から持ち込まれた新型爆弾の行方を、
エドワード達はまだつかめずにいた。
焦燥を覚えるエドワードは、
ある日、一人の少女と出会う。
あの世界に残してきた少女とそっくりな顔をしたその少女が、
ウラニウムの手掛かりになるとも知らずに。
少女は手紙を出し続けていた。
この5年間。
それを見守るは一人の郵便配達屋。
救いたいという気持ちが
エドワードに過ちを囁く。
それはロイと同様に。
刻々と近づく終焉への時間に焦燥は募る。
「彼女」を置いてきたという事実がどういうことなのか、
初めてエドワードの身に突き刺さる。
それを知ってか知らずか、
無知な少女は無邪気に言った。
「あなたを好きになったと言ったら、どうする?」
|